♯16 帰宅

『五十和』と記されたへいの前に着くのに、拓舞はそれほどの時間が掛からなかった。

だが、問題はそこからだった。

家に入ろうにも、出てきた家族にどう接して良いものか。

鱗粉に関しては放浪の間に収納が利く様になったから良いものの、拓舞は仮にも家出状態だった身。

怒られるなんて生易しい反応では済まないのは確実で、無論目に見えていた。


果たしてどう説明したものか。

塀のところまで来て、ようやっとそれに気が付いた拓舞は狼狽うろたえるばかりだった。





手紙を一方的に送った後、音信不通になっていたお兄ちゃんが、帰って来た。

妹の片方、みことは玄関に付いたカメラから様子を見て、確信した。

髪の毛はボサボサ、何故か筋肉も付いているが、間違いなくお兄ちゃんである。

嬉しさのあまり、アホ毛が跳ねる跳ねる。


数ヶ月振りに、帰って来た!!


嬉しかったのは事実だがしかし、そこはけじめを付けて貰わないと困る。

絶対にこの喜びを、お兄ちゃんに悟られてはならない。

「……ねぇかな、どう思う?」

「……どう思う?って言われてもなぁ」

もう片方の妹、かなは顔をしかめるが、別に悩んでいる風でもない。

みこと的にはそういう、

【生返事+大げさな反応→何も考えてない】ところは父さんにそっくりで腹が立つのだ。

是非とも殴って差し上げたい。


「ウジウジしとる兄貴を殴るのが早いかと」

かなは兄貴が嫌いである。

年子なのもあって、しょっちゅう喧嘩が絶えない間柄。

妹にあたるみことがしっかりとし過ぎている為か、割と奔放ほんぽうに出来るはずだったところを兄貴に奪われた為、兄嫌いが絶頂に達している。

「駄目よ~。女の子がそんな事言っちゃ」

母親がひょっこり顔を出す。

おっとりし過ぎではないだろうか。

母親の響歌きょうかはこう見えて元自衛隊員である。字面じゃ姿は見えないが。


「悪い娘たちはAK-47Ⅲで滅多打ちにしちゃうわよ~」

前言は撤回する。とんでもない母親だ。

「……それにしても」

いつまでも入って来ない拓舞を、果たしてどうしたものか。響歌も命も奏も、そればかりが気になって仕方ない。

「やっぱ兄貴殴って来る」

奏は命の制止も聞かず、玄関を飛び出した。


「たァァァァァァくまァァァァァァァァ!!!!」

「!?」




拓舞はその突然の事に対処出来なかった。

頬に突き刺さる妹の拳の感触……その固さと勢いに脳を震わせながら、拓舞は家の前のアスファルトに後頭部を打ち付ける。

勢い余って体は反転し、そのまま1回転。


そこに痛みは無かった。

厳密に言えば、後から時間差でやって来た。

殴られた瞬間は……空白。

そのあまりの突発的襲撃故に、感覚までもが麻痺まひしてしまったのだった。

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