♯15 真相を求む者

世界というのはとてつもなく広いというのに、人間は自分の管理できる部分しかその存在を認めないものだ。

俺は放浪したこの数ヶ月の間に、いくつか見聞して解った事がある。

まぁ、それも追々解るだろう事なので、ここでは記さない。


1つだけ提示するとすれば…………実は俺の家がある区画【どう】はという事だろうか。


それだけではない。【道】どころか日本という国全体までもが、同じ様に隔離されていたのだ。

幾何学きかがく的な模様の刻まれた、黒っぽい石の障壁…………。

(俺は勝手に呼んでいるが)【こくもんへき】によって日本は外部から隔てられ、さらにその中でもある程度の間隔で【刻紋壁】は建てられている。

どうも壁を挟む双方の地域が絡むと、良くないと考えている奴らがいるらしい。


俺はその壁を、何故か越える事が出来なかった。

どうやら【害蟲】による大規模反乱が起こらないのもこの壁がダムの代わりを果たしているかららしい。


そういえば、東京へ向かった時に、【連合】の加盟員のみ使用可能な地下鉄に乗った事を思い出した。


1つのはずが結構出してしまった。




俺は【連合】に戻りたくなかった。

かといって反抗の意識が強い訳でもない。

街の破落戸ゴロツキと共に生きる様な度胸は無いし、しかし真面目に学校へ行くほど勤勉では無かった。


俺は自分の【放浪者】という立場からでしか解らない真実を求めて、街を彷徨うのだ。




何故人は蟲と交わっていったか。

何故俺は【害蟲】として強い種に成ったか。

何故父さんは俺に嘘をいたのか。

何故日本は【刻紋壁】で隔てられたのか。それがもし反乱の防止であれば、何故これまでの反乱で【抗体】を用いなかったのか。


謎だらけだった。

その謎を解き明かし、この世に暴いた真相を突き付ける為、俺は【放浪者】という隠れみので、真実を求める【探究者】になった。


それがもし、人類の隠してきた秘密に触れる様な、そんな重大な罪だとしても…………。





俺はしかし、どうもその道を何かにはばまれる運命にあるようだ。

目の前の高架橋から、トラックが降ってきた。

どうやら居眠り運転でもしていたのだろう。丁度ちょうどここの高架橋は微妙なカーブになっており、直進すれば落下する、そんな構造になっている。

俺は【害蟲】の姿に成り、降ってきたトラックを下から受け止め、そして自分のすぐ横にあった車道に降ろした。

危なかった。

トラックといっても、トレーラーである。

油をたっぷり積んでいた。もしこんな所で事故になったら一帯が火の海になっただろう。


トレーラーの運転手が出てきた。

「いやぁ、先程は本当に有り難うござ……」

俺はその顔を見て、思わず人間の姿に戻ってしまった。俺の顔を見てか、相手も腰を抜かす。

「……父さん……だったの……」

「拓舞……。お前拓舞なのか……!?」

お互いに驚き、そして感情がせめぎ合う。

「何で居眠りなんか!!」

「何でお前が【害蟲】に!!」

同時に言い放ったそれは、最大の侮蔑ぶべつと怒りを込めた、相手を傷付けるだけの言葉のつるぎ


互いに心配しあっていたのに。

気が付けばそれすら、みぞになって表面に出てきた。

「……家に、戻って来い。話はそこで聞く」

父さんは半ば勝手に、そんな約束を取り決めさっさと行ってしまった。


いや、勝手は俺の方だった。

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