♯13 暗殺の末路

侵入から数分後の事だ。

湯煙で視界がさえぎられる中、俺は『中に入るのはやっぱり……』と言ったアルナに変わり、ハーネスさんの首を獲ろうと風呂に侵入した。

ハーネス宅の風呂場は異様に広い。

恐らく学校の教室一個は丸々入るくらいである。

そんな場所の何処かに彼はいる。

俺は第六感的なものでそれを察知し、風呂場を取り敢えず壁伝いに進む。

これは視界が悪い時の、防衛策の1つだ。


壁という部分は、生物は自由に行き来出来ない。相手の襲撃方向を少しでも絞る事で、反撃に備える為の手段である。


足元もあまり好ましいとは言えない。

地の利的には相手に有利だろう。

そも俺は水分によりあまり動けない。こうしている間にも鱗粉が湯煙を吸収し、俺の足取りを重くしていくのだから。


「…………」


ハーネスさんの気配がした。

方向から推測するに、湯船に漬かっているのだろう。

極楽を味わっているところ申し訳が立たないが、これも人類の為――――。

すっと壁伝いに湯船に近づき、もう少し動けば浴槽、というところまで近付いたその時。


「誰だ?俺の風呂に断らず入っている奴は」


バレた……!!!

えもいわれぬ殺気が、確実に俺の方向へ向けられている。

「暗殺は初心者ひよっこの様だな……。

まぁ作戦や動きはそれなり、か」

暗殺未経験だとも知れているとは、姿も見ずよく解るな……。

俺はハーネスさんの独自の見解に驚愕するばかり。

「だが残念だな、恐らくお前の欲しているものを与えてはやれないだろう。

何故なら、俺は――――――――」


湯煙から一気に姿を現したハーネスさん。

俺はその素早さ、あらわになった猛々たけだけしい肉体に見蕩れ、あっというまに床に倒された。

「――――シレン……?」

ハーネスさんの顔がそして、赤くなる。

俺は喉に小刀を突き立てられているのも忘れ、自分の胸元にある温かく柔らかい感触に違和感を覚えた。

「ハーネスさん……胸に当たってるこれって……まさか…………!!」

思い切り殴られ、壁にめり込む。

「それ以上言うな。隠していたというのに」


ハーネスさんは頭に乗せていたタオルを胸元から下に掛け、恥じらいながら呟いた。


「俺が、……………………女だという事を」




暗殺はかくして、大失敗に終わった。

俺はハーネスさんに顔を向けられなくなったというのは、言うまでもない。

アルナには叱責しっせきの嵐を浴びせられた。

だがそれ以上に、彼……いや彼女の心を傷付けてしまった責任で、俺は精神が潰されそうになってしまった。


俺は果たして、本当に【害蟲】のままで良いのだろうか?

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