番外話① 助手・弦宗の心象記

これは私、五十和弦宗による手記である。

よって、いずれこの手記の存在を知るだろう拓舞の知らない私が淡々とつづられる。

読んでも読まなくても、この物語を読む貴方がもし私の息子の拓舞でないならば、さほど困らないだろう。


さて――――――――物語を始めよう。


私の物語は、運転手としてレギュラーガソリン20キロリットルを運搬していた時から始まる……。

私はいつも通りトラックの運転に集中していた。集中しないのは危険極まりない行為だ。


『ツルさん、今日は高速ダメっすわ』

「そうスか、こりゃ帰りが遅くなるな……」


無線でそんな事を話しつつ、頭の中ではそれともまた別の事を考えていた。


運転手としてではない、もう1つの任務。

隠れみのを脱ぎ去れば、この弦宗はある種政府に反抗する組織の人間である。

反社会的ではないが、政府がその存在を認めていない【何か】――――この頃には姿を見た者はなく、【害蟲】などの通称もなかった生物――――に対抗する為に結成されたものだ。


反政府組織ではないが確かに、政府の意に反するという意味ではそれとほぼ同意なのだろう。

だからこそ、妻や子供たちにはそれら一切を教えず、手記として遺し彼らが成長してから見て貰う形式にした。

私は恐らく、そう遠くないうちに『事故』で亡くなる事になっている。

この手記を書き遺すのは、置いていく事になる息子と娘たち、妻へのせめてもの償いだ。


私の雇い主は、自らを会長と名乗る男。年は私とそれほど変わらないようだが、明らかに私とは行動理念が違う様に思われる。

何処か自分を偽っているというか、周囲を自分ごと騙しているというか……。

まぁ、それは私が解き明かす謎ではない。

どちらにせよ、それは息子ないし娘が真相を暴いてくれる事だろう。

それも恐らく、息子の拓舞が。


息子は気が付いていないのだろうが、拓舞には私の血が流れている。

私の、と言っても厳密には私自体の血では無い。

それは【害蟲】の血である。

私は【害蟲】なのだ。

妻にさえ伝えた事は無いが、私には生まれつきカギムシとかいう多足虫の血が流れているらしい。

会長はその血の持つ能力に眼をつけ、私を雇う為に交渉を重ねてきた。

自覚せぬまま普通に就職したので、今まで思いもしなかったのだが、会長いわく私が【害蟲駆除】におけるキーなのだという。


かくして私は、会長を影から支援する形での契約を結び、同時に秘密を生涯を通し保持し続ける約束もした。


そして、弦宗という人間は語り部となった。

自らの口ではなく、手記に書き留めるという形で、物語を伝えていく為の。

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