♯11 会長と拓舞の接点
「待っていたぞ、五十和拓舞くん」
会長は椅子の背もたれをこちらに向け、全面張りになった窓の向こうの景色を見て、そう言った。
「何故俺の名前を知っているんですか」
「いや、君は有名だよ?少なくとも私の中では」
変な物言いだな、と思わざるを得ない。
自分の中では有名とは、これまた
「君は蟲が嫌いなんだろう?どうなんだ?」
「嫌いですよ。特に多足類は」
「それならば話は簡単だ。蟲の力を棄てろ」
「……え?」
会長は能力者ではない。
彼は自らの手ではなく、他の能力者の力によって【害蟲】による反乱を抑えた。
元々生物学者だった彼は俗にいう【虫】にも精通しており、経験と知識による的確な指示によって現在、当初の半分近くまで【害蟲駆除】を達成したのである。
だが彼は【動物恐怖症】という、学者人生を終わらせるのには十分な代償を背負った。
特に虫に至っては、婚約者を目の前で喰われた事もあり恐怖を越えて殺意が湧くと言う。
詰まるところ彼は、俺を見て自分の過去を重ねた
「ここにあるのは」
会長は1つ、緑色の液体入りのビンを机の引き出しから取り出した。
「【害蟲細胞】を死滅させる抗体だ」
俺は驚くしかなかった。
それが大量生産が出来れば、【害蟲駆除】という危ない橋など渡らなくても良くなるのではないか――――。
「言うまでも無いが、現在大量生産する手立ては存在しなくてね。この一本だけだ。
それを君にあげる意味、解るかい?」
「何故俺なんです……?」
「質問返しは
どうもその意味を答えるまで、こちらの問いには答えてはくれない。
理論武装というものを、より強固にしている相手……。それを打ち崩す方法を持たぬ俺に出来る選択は、たった1つ。
会長の言わんとするところを指摘し、意表を突く事だ。
「……俺に何か特別な力か何かが有ると。
会長はそう思っているんですか?」
「まぁ、その解答に満点はあげられないな。
思っているのではない、知っているから」
何故俺の知らぬ事を、赤の他人の会長が知っているというのか。
悔しいが、意表を突かれたのは俺の方だった。
「君の父親は……【害蟲】なんだよ」
俺の父親、
運ぶ物は主に燃料。ガソリンなどである。
帰宅は遅く、出勤は夜中の為ほとんど話す事がない。
出張ともなれば1ヶ月以上帰って来ない、というのは既に日常化していて、帰って来たオイル臭いつなぎ服の父親に、小さかった頃の俺や妹は寂しさから抱き付いて離れなかった……。
そんな姿しか知らない俺だったが、会長はこんな風に続けた。
「彼は、弦宗は私の助手をしていたんだ」
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