♯5 居場所

その日はくもっていた。

雨雲とおぼしきゴワゴワした雲が、空をおおい尽くしている。

気圧が変動したせいか頭が痛い。


「おはようシレン。すまないが来てくれ」


起きてすぐ、ベッドのふちに座っていたハーネスさんがそんな事を言った。

驚きよりもその表情の方が気になった。


『来てくれ』とは言うが乗り気ではない。


何故だか、妙な胸騒むなさわぎがした。




ハーネスさんに着いて行くと、そこには結構な人数の人々がいた。

全員【害蟲】だ。普通に人の姿だが直感がそう叫ぶ。

対して俺はもろ【害蟲】だ。皮膚ひふはもう人の名残なごり微塵みじんも無い。


自分でも少し怖いくらいだ、他人の目にはどう映る事やら。


俺は気持ち悪がられる覚悟だけは出来ていたのだが、彼らの反応は予想の斜め上を突き破っていた。

「凄ぇ!!」

「是非ウチの隊に!!」

「怖かったろう!?」

「もう大丈夫だぞ!!」


皆、俺を見て羨望せんぼうやら勧誘かんゆうやらしてくる。

それらの行動が何を意味するか、俺は知っていたが体験までした事は無かったものだから、思わず泣いてしまった。


「……俺……ッッ!」

「どうしたシレン、大丈夫か!?」

「……必要とされるのが、嬉しくて……!」


締めようと思った蛇口じゃぐちを間違って開いてしまうみたいに、涙腺るいせんが涙を垂れ流し、規制きせいが効かない。


「……そうか……。

えっと~、こいつはシレン!

今日から【連合】の正式メンバーになるから、みんなよろしく頼むぞ!」


その声に、全員が喜ぶ。

その反応に、俺が喜ぶ。


俺はやっと、自分の居場所を見つけられた気がした。




俺は自分の家に、手紙を書く事にした。

しばらく帰れないむねを伝える為だ。


『……拝啓はいけい 母さん。かなみこと

しばらくそっちには帰れません。

不安でしょうが心配しないで下さい。

2度と会えないかも知れませんが、えず俺は生きています。

遺言ゆいごん書っぽいけれど、本当に生きてるから。

追伸・もし探しているなら、止めて下さい。今の俺を見たら、嫌になるから。多分。

草々 五十和イソノワ拓舞タクマ


これで良いんだ。

俺は割り切って、ポストへ投函とうかんした。


と、突然母さんが脳裏に現れた。

もう1度、母さんの作ったハンバーグが食べたい。野菜が多くて美味しかった……。

そして二人の妹の姿が脳裏に浮かぶ。

喧嘩けんかが絶えなかったが、大切な家族だった。フルボッコにされたっけな……。

そして父さん。

仕事が忙しくてほとんど話す事が無かった。

けれど、陰から支えてくれた大切な人だ。

ロリコンなのだけが許せなかった……。


だけどそんな家族とも、もう2度と会えない。会えたとしても、会わない。

その方がお互い、きっと良いのだ。

それでも大丈夫だ。俺には今、新しい居場所がある。

俺なんかを必要としてくれる、そんな場所が。

孤独じゃ、無いから。

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