第4話 明日、会えるよね?
「これでどうですか? やっぱり赤がいいでしょ?」
七月が終わる頃になっても、涙の色の話に決着はつかず、俺たちはまだ話し合っていた。
「そうなんだけど、でもやっぱりなんか違うんだよな」
「またそれですか…… あ、もしかして私と話していたいから、わざと納得しないでいるんですか?」
彼女はニヤニヤ笑いながらそう聞いてきた。
最近では、彼女はこんな風に俺をからかうようにまでなっていた。
いつもならすぐ否定するんだが、今日は少しだけ仕返しをしてみたくなったので、俺は真剣な顔で、「そうかもな」と言った。
そしたらさ、笑っちゃうよ、頬を赤くしながら、「ど、どうしたんですか急に」だってさ。
その顔があまりにも可愛かったから、俺はもう少しだけからかうことにした。
「いや、その通りかもしれないと思ったんだ。一緒にいるのが楽しいから、話を続けていたいから否定してるのかなと思ってな」
「そ、そうですか…… ありがとうございます……」
なぜか少し伏し目がちに彼女はそう言った。
その顔に俺は、冗談だとも言えなくなり、しばらく沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは携帯が鳴る音だった。
携帯を開くと、今日のバイトの終わりを告げるメールがそこにあった。
毎回思うんだが、バイトが終わる時間は、一体どういう基準で決められているんだろうか?
いつも終わる時間はバラバラで、何の規則性もない。どこかで俺を見張って時間を決めているんだろうか?
そう思って周りを見渡したが、そんなことができるような場所は、どこにもなかった。
「どうしたんですか?」
急にキョロキョロした俺を見て不思議に思ったんだろう、彼女がそう聞いてきた。
「いや、なんでもない……」
そう言おうとして、一つアイデアが浮かんだ。
もしここでこの子に、このバイトのことを相談したら、きっといい解答を導き出してくれるのではないだろうか。
今までの会話からわかったことだが、この子は頭がいい。その目はいつも真実を見透かしているように見えた。そんな彼女なら何かわかるかもしれない。
バイトのことは口外するなと言われている。
だが、まわりに監視がいるわけでもなさそうだし、ここで話してもバレることはないだろう。
それにいくら割がいいとはいえ、俺はこのバイトのことを不気味に思い始めていた。
さっき監視はいなさそうと言ったが、監視がいないなら一体何のためにこんなことをしているんだ?
いい加減はっきりさせるべきなのかもしれない。バイトを続けるにしても辞めるにしてもだ。
その足がかりにでもなるならと、俺は彼女に相談することにした。
「なぁ、相談があるんだけど、いいか?」
意を決して彼女にそう聞いた。
「相談ですか…… いいですよ、私で力になれることなら何でも言ってください」
彼女は力強い目でそう言ってくれた。
「実は……」
*
俺はバイトのことを全部彼女に話した。
俺が話している間、彼女は驚きながらも、黙って話を全部聞いてくれた。
「なるほど……」
話が終わると、彼女は一言そう言った。
「不思議な話ですね」
「それで、どう思う? このバイトについて」
俺は彼女に解答を求めた。
「そうですね、今考えられる可能性は三つですかね」
「三つ?」
「はい。一つ目は誰かがここを監視して、何か実験を行っているという可能性です」
「だがそれは——」
「はい、辺りを見渡したところ、監視できるような場所はありません。だからこの可能性は低いでしょう」
俺の言葉を遮って彼女は話した。
「二つ目はただのイタズラという可能性です」
「だけど、お金が実際に振り込まれたんだ。イタズラの可能性は低いんじゃないか?」
イタズラのために金を振り込むとはとても思えないし、そんな奴がいたら馬鹿としか言いようがない。
「そうですね、この可能性も低いでしょう」
「そして最後三つ目は、あなたが嘘をついている可能性です」
「俺は嘘なんかついて——」
「知ってます。あなたは嘘をつくような人じゃありません。よってこの可能性はゼロです」
また、彼女が俺の言葉を遮って、そう言った。その声には少し力がこもっているように感じた。
「じゃあ、結局……」
「はい、お手上げですね。全然わかりません、そのバイトが何のためにあるのか」
彼女は肩をすくめてそう言った。
「そうか……」
「すみません……お力になれなくて」
「いや、仕方がないさ」
そう、仕方がないんだ。
いくら彼女とはいえ、こんな少ない情報で、こんな訳の分からない謎を解けるわけがない。
「とりあえず、今日はもう帰りましょうか。もう終了のメールが来たんですよね?」
「ああ」
「もし、また何か新しいことがわかったら言ってください。力になれるかはわかりませんが」
「いや、ありがとう。そうするよ、とても心強い」
実際、彼女ならそのうち、この謎を解いくれるんじゃないかという気がしていた。
「それじゃあ、さようなら……」
「ああ、また明日」
さようなら、そう言った彼女の目はなんだか少し悲しそうに見えた。
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