第236話狂言示諸姪
狂言示
世欺不識字 我忝攻文筆 世欺不得官 我忝居
人老多病苦 我今幸無疾 人老多
心安不移轉 身泰無
況當垂老歲 所要無多物 一裘煖過冬 一飯飽終日
勿言舍宅小 不過寢一室 何用鞍馬多 不能騎兩匹
如我優幸身 人中十有七 如我知足心 人中百無一
傍觀愚亦見 當己賢多失 不敢論他人 狂言示諸姪
思いつくままの言葉を、甥たちに語る。
世間の人々は、読み書きが出来ない人間を低く見るけれど、この私は幸いなことに、文筆を生業としている。
世間の人々は、官職ではない人間を低く見るけれど。この私は幸いなことに、官位を得ている。
人間というものは、老いが増せば病苦が増えるけれど、この私は幸いなことに、これといった病はない。
人間というものは、老いが増せば心配なことが増えるけれど、この私は今子供たちの婚姻まで済ませている。
今の心は安らかで、不安に惑うこともなく、身体も健康で何ものにも縛られていない。
そういうことであるので、この十年というもの、身も心ものんびりと自由な境地で過ごしてきた。
それに加えて、年を取るにつれて、欲しいと思う物も減っている。
皮衣が一枚あれば一冬を暖かく過ごせるし、食事も一度摂れば、一日中空腹は感じない。
住まいが狭いなどとは口に出すことではない。
寝るには一部屋あれば問題はないのだから。
馬にしても、多くの馬が必要なのだろうか。
一度に二頭の馬に乗ることなど不可能ではないか。
さて、この私のように恵まれた状態の人は、十人中七人と言ったところだろうか。
しかし、この私のように自足を心得ているものは、十人中一人もいないだろう。
他人から見れば無欲と愚か者と見られているかも知れないけれど、自分自身のことについては世に賢人と言われる人でも自覚は足りていないことが多い。
あえて、他人に言うほどのことでもないので、せめてこの思いつくままの言葉を甥たちに語ることにしよう。
※狂言:でたらめな、心に浮かんだだけの思いつきの言葉。
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※
※婚嫁:子供の結婚。
○開成二年(837)、洛陽の作。
○若い時代に懸命に学問に取り組み、官位を得て、様々紆余曲折はあったものの、今は満足できる生活を送っているということを、将来を担う身内の子供たちに語っている。
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