第233話對琴酒

對琴酒


西窓明且暖 晚坐卷書帷 琴匣きんこう拂開後 酒瓶添滿時

角尊白螺盞 玉軫黃金徽 未及彈與酌 相對已依依

泠泠秋泉韻 貯在龍鳳池 油油春雲心 一杯可致之

自古有琴酒 得此味者稀 秖應康與籍 及我三心知



琴と酒の前で


西の窓は明るくて暖かい。

日暮れに座り、書斎の幕を巻き上げる。

琴のはこを塵を払って開け、瓶に酒をなみなみと満たした時。

角で出来た樽に、白い螺鈿の杯。

玉で出来たつまみに、黄金でできたしるし。

まだ琴を弾かずとも、酒を酌まずとも、目の前にあるだけでも、魅了される。

秋の泉水の冷ややかな調べは、龍池、鳳沼の穴のなかにかくまわれ、

春の雲のふんわりとした心は、この一つの杯にて呼び寄せられる。

琴と酒は、古来より伝えられてきたものではあるけれど、

このような思いを感じた人は、本当に少ないと思われる。

おそらく、嵆康けいこう阮籍げんせき、そしてこの私の三人の心が知るだけと思う。


※書帷:書斎の幕、カーテン。

※角樽:動物の角で作った酒器。

※白螺盞:白い螺鈿を施した杯。

※玉軫:玉で作った琴の音程を調節するつまみ。

※黃金徽:琴の表面にある音程を示すしるし。

※依依:魅了される。

※龍鳳池:音を出すために琴に開けた穴。長方形の穴を龍池。円形の穴を鳳沼と言う。

※油油:ゆっくり、ふんわりと雲が動く様子。

※康:嵆康けいこう。魏晋の酒と琴を愛した哲人。

※籍:阮籍げんせき。魏晋の酒と琴を愛した哲人。


○大和九年(835)、洛陽の作。

○琴と酒を愛した古代の哲人と同じ思いを、今自分が味わっている。

 本当に、余生を楽しんでいる白楽天、いろいろな事を味わっただけに、琴の音も酒の味も、格別深みがあるのではないだろうか。

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