第232話詩酒琴人、例多薄命

詩酒琴人、例多薄命。

予酷好三事、雅當此科。而所得已多、爲幸斯甚。偶成狂詠。聊寫愧懐。


愛琴愛酒愛詩客 多賤多窮多苦辛 中散步兵終不貴 孟郊張籍過於貧

一之已嘆關於命 三者何堪並在身 只合飄零隨草木 誰教凌励出風塵

榮名厚祿二千石 樂飲閒遊三十春 何得無厭時咄咄 猶言薄命不如人


詩と酒と琴を愛するよう人は、えてして不幸になる場合が多いものである。

そして、この私は、その三事がひどいと思うほど好きであり、その罪科にまさしく該当する。

しかし、私は充分に恵まれているし、とても幸せに暮らしている。

突然、とりとめのない詩が出来上がったので、愧懐の思いを少々書き写してみた。


琴を愛し、酒を愛し、詩を愛する人は、みな身分が低く、貧乏で苦労の多い生活を送る。

嵆康けいこう阮籍がんせきは、とうとう出世を遂げることはできず、孟郊・張籍は貧窮を極めた。

一つの問題でも不運を招くと嘆かれるのに、三つを身につけるなど堪えることができるだろうか。

ただ、草や木のごとくに、風に身を任せるのが良いと思う。

俗世界から離脱して、空高く飛翔するなど、不可能であるのだから。

栄誉は高く、俸禄は厚く二千石。

楽しく飲んで、のんびり遊んで三十年。

飽きることもなく、時には自分でも首を傾げるほど楽しんで暮らしている。

こんな状態で、人に及ばぬ不幸な身などと言えるわけがない。


※當此科:この法律の条文に該当する。詩・酒・琴を愛する以上は、自分が不幸に陥ることは当然であるとの意味。

※愧懐:恥ずかしい思い。

※中散:中散大夫であった嵆康けいこう。竹林の七賢。獄死。

※歩兵:歩兵校尉であった阮籍がんせき。生は全うしたけれど官位は低いまま。

※孟郊張籍:孟郊と張籍。白楽天と同時代の詩人。ともに低い官位で終わった。

※凌励:空高く飛翔する。


○大和八年(834)、洛陽の作。

○詩と酒と琴を愛するような風流人は、たいたい不幸な身分で終わるけれど、白楽天自身は、そうなっていない。栄誉を手にしているし、暮らし向きも全く問題がない。

確かに、これで不孝などと言えるわけがない。

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