第222話詠興五首 其三 池上有小舟

詠興五首 其三 池上有小舟


池上有小舟 舟中有胡床 床前有新酒 獨酌還獨嘗

薫若春日気 皎如秋水光 可洗機巧心 可蕩塵垢腸

岸曲舟行遅 一曲進一觴 未知幾曲酔 酔入無何郷

寅縁潭島間 水竹深青蒼 身閑心無事 白日爲我長

我若未忘世 雖閑心亦忙 世若未忘我 雖退身難蔵

我今異於是 身世交相忘


その三 池に小舟が浮かぶ


池に小舟が浮かぶ

小舟の中には床几。

床几の前にはできたての酒。

一人手酌で一人飲む。

この酒の香りは、春の日の雰囲気。

この酒の白さは、秋の水のきらめき。

世渡りの巧智などと汚れた心は洗い清めるべき。

世間の塵にまみれた体内もゆすぐべき。

岸は曲がりくねるので、舟の進みはゆっくりと。

一つ曲がれば、酒を一杯。

この酔いは、何回か曲がってからの酔いなのか。

酔ってしまったので、無何有の郷に入る。

淵や島の間をゆっくりと進む。

水辺の竹を見れば、深く青々としている。

この身は忙しいことはなく、心にも何も思うことはない。

昼間は、私のために、いつまでも続く。

私がもし今でも世間を忘れなければ、仕事がなくても心は落ち着くことがない。

世間がもし今でも私を忘れなければ、隠退し身を隠すのは困難。

ただ、今の私は、どちらでもない。

この私も世間も、お互いを忘れてしまっているのである。


※胡床:折りたたみの出来る簡便な椅子。

※皎:酒の白い色。

※蕩:洗い流す。

※無何郷:理想郷。

※寅縁:あたりをぐるぐると回る。








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