第211話病眼花

病眼花


頭風目眩もくげん乗衰老 秖有増加豈有瘳

(傅云 有加而無瘳)

花發眼中猶足怪 柳生肘上亦須休 大窠だいか羅綺らき纔辯さいべん 小字文書見便愁

必若不能分黒白 卻應無悔復無尤


目がかすんでしまう


年齢が進むにつれて、頭は働かなくなるし、目はかすんでくる。

それも、ただ単に悪化するだけ、好転することは無い。

(春秋左氏伝にも、悪化するのみであって治ることは無いと書かれている)

目がかすんできているだけでも不安なのであるけれど、肘にこぶができたとなると、もうお手上げだ。

薄絹の大輪の花模様は、かろうじて見分けられるけれど、文字が小さな書物を見ることには難儀する。

かりに、黒白の判別ができなくなったとすれば、そのほうが後悔することもなく、咎められることもないのではないか。


※眼花:目がかすむ。「花」はぼんやりとすること。

※頭風:頭がぼんやりと働かないこと。

※柳生肘上亦須休:「莊子:至楽篇」より。かつて支離叔と滑介叔という二人が、死者の丘、神仙の山で、古代の黄帝が休息していた場所を見ていた際に、突然、滑介叔の肘にこぶが生じた。支離叔が心配して、邪魔になるかと尋ねたところ、滑介叔は否定して「生は借り物、生死は昼から夜に移るようなもの、私たちは自然の変化を見に来ただけ、その自然の変化が自分に及んだだけ」と答えた故事による。

白楽天自身も、自然の老化現象として、捉えてる。

大窠だいか:大きな花模様

※看纔辯さいべん:かろうじて見わけることができる。


○大和五年(831)、洛陽の作。

○目のかすみが生じ、老化現象を認め、嘆いている。

 白黒の判別ができなくなったら、その時点で悔やむこともなく文句も言われなくなるという、ある意味、開き直りだろうか。


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