第204話池上篇

池上篇


十畝之宅 五畝之園 有水一池 有竹千竿 

勿謂土狭 勿謂地偏 足以容膝 足以息肩

有堂有庭 有橋有船 有書有酒 有歌有弦

有叟在中,白鬚飄然 識分知足 外無求焉

如鳥擇木 姑務巣安 如亀居坎 不知海寛

霊鶴怪石 紫菱白蓮 皆吾所好,盡在吾前

時飲一杯 或吟一篇 妻孥熙熙 鶏犬閑閑

優哉游哉 吾将終老乎其間


十畝の屋敷に、五畝の庭。

水としては池が一つ。

竹は千本生えている。

土地の狭さなどは言うべきではなく、

場所が市街地から離れているとも言うべきではない。

膝を入れるには問題がなく、肩を休めるにも問題がない。

母屋があり、亭もある。

橋もあるし、舟もある。

本があるし、酒もある。

歌もあるし、楽器もある。

そこにたたずむ翁が、白い鬚を風になびかせる。

その分を知り、余計なことは求めない。

それは鳥が自然に枝を選び、ゆっくりと安らかな巣を求めることに、通じている。

亀が穴の中にいて、海の広さを知らないことにも、通じるかもしれないけれど。

霊験に満ちた鶴と不思議な石。

紫のヒシと白い蓮。

どれをとっても、私自身が好むもの。

その全てが目の前にある。

たまには、一杯の酒を飲み、一篇の詩を吟じることもある。

妻や子は、幸せの中に暮らし、鶏や犬も悠々としている。

本当にくつろぎに満ち、のびやかである。

この中で、私は老後を終えることとしよう。


※地偏:市街地から離れている場所。

※容膝:狭いこと。

※熙熙:なごやかで幸せなこと。

※優哉游哉:のびやかで自在な様子。


○大和三年(829)、洛陽の作。

○大邸宅に住み、欲しいものは全て目の前に有り、家族も幸せに暮らしている。

 白楽天にとって、ようやく手に入れた理想郷、様々悲哀、落胆の時期もあっただけに、喜びも深いのだと思う。

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