第199話自嘲

自嘲


五十八翁方有後  静思堪喜亦堪嗟  一珠甚小還懃蚌  八子雖多不羨鴉

秋月晩生丹桂寶  春風新長紫蘭芽  持杯祝願無他語  慎勿頑愚似汝爺


五十八の老翁になって、ようやく跡取りができた。

よくよく考えてみれば、喜ばしさと、恥ずかしさがある。

この一粒の真珠はほんとうに小さく、真珠を生む蚌には恥ずかしいほど。

鴉は、八羽も雛を生むほどの多産ではあるけれど、羨ましくは思わない。

秋の月の中の丹桂に、遅ればせながら実がついた。

春の風も吹き、紫蘭の芽が伸びた。

杯を持ち、祈るのはこの言葉のみ。

「心すること、頑固で馬鹿なこと、お前の父には似ないように」


※白楽天は五十八歳で、はじめて男児を授かった。

※真珠は、蚌という淡水の貝の中で作られると考えられていた。

※丹桂の実:子供のこと。月には桂の木が生えていると考えられていた。

※頑愚:世渡りの拙さ、自分自身のことだろうか。


○大和三年(829)、洛陽の作。

○白楽天五十八歳にして、ようやく跡継ぎの男児が誕生した。

 詳しい事情は不明ながら、確かに五十八歳の男性としては、嬉しさもあるし恥ずかしさもある。

○それでも新しい命を、真珠、丹桂、紫蘭と喩えている。まずは喜ぶべきことである。

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