第196話偶作二首 其二

偶作二首 其二


日出起盥櫛かんしつ 振衣入道場 寂然無他念 但對一爐香 

日高始就食 食亦非膏梁 精粗随所有 亦足飽充腸

日午脱巾簪きんさん 燕息窓下牀 清風飄然至 臥可至羲皇ぎこう

日西引杖履じょうり 散歩遊林塘 或飲茶一盞いっさん 或吟詩一章

日入多不食 有時唯命觚 何以送閑夜 一曲秋霓裳げいしょう

一日分五時 作息率有常 自喜老後健 不嫌閑中忙

是非一以貴 身世交相忘 若問此何許 此是無何郷



偶然に詠んだ詩 その二


日が昇ると起きて身なりを整え、衣を振るって道場に入る。

静寂の中では何も考えず、香炉からの一筋の煙に一心に向き合う。

日が高くなると、ゆっくりと食事を摂る。

肉や米などの贅沢な食事ではない。

食卓に並んだものに文句をつけず食べる。

それで空腹を満たせるのだから、十分なのだ。

日が真上に昇れば、頭巾もかんざしも外す。

そして窓辺の牀で、のんびりと息を休める。

すっと入ってくる涼しい風は、横になったままで、いにしえの王の気分を味わせてくれる。

日が西に傾けば、杖を手に靴を履く。

それからは林や池の周りの散策をする。

たまには茶を一杯、時には詩を一章口ずさむ。

日が沈めば、食事を摂らないことが多い。

時には酒だけを命じることもある。

暇な夜には、何をして過ごすのか。

秋の長い夜には、霓裳げいしょう羽衣を一曲。

一日は五つに分ける。

身体を動かす時、身体を休める時、大凡日課に従う。

この老年になっても健康であることはうれしく思う。

閑中でのたまの忙しさならば、問題とはしない。

良いことや悪いことの基準は変えない。

自分が何であるか、世間が何であるかも、互いに忘れてしまった。

仮にここが、どういうところかと聞かれるならば、

こここそが、無何有の郷であると答える。


盥櫛かんしつ:手や顔を洗い、髪の毛をとかす、身なりを整える。毎日の身だしなみ。

※道場:仏法修行の道場。自宅に設置したと思われる。

膏梁こうりょう:脂の乗った肉と上質の米、贅沢な食事を指す。

巾簪きんさん:頭巾とかんざし。

※燕息:ゆっくりと休息すること。

※林塘:林や池。

※無何郷:中国の理想郷。


○大和三年(829)、洛陽の作。

○洛陽閑居での日常生活を、太陽の高さに合わせて五つに分けて記している。

 まさに白楽天が考える理想郷に住み、理想の生活を送っている。

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