第192話晩桃花
晩桃花
一樹紅桃亞拂池 竹遮松蔭晩開時 非因斜日無由見 不是閑人豈得知
寒地生材遣校易 貧家養女嫁常遅 春深欲落誰隣惜 白侍郎來折一枝
遅咲きの桃の花
赤い桃の木が一本、その枝が低く垂れて湖面に触れている。
竹や松に周囲を囲まれた日陰で、ようやく花が咲いた。
日差しが傾かなければ見つけることもできず、暇をもてあます人でなければ気がつかないだろう。
こういう寒々とした場所に咲いた花は、案外残りやすいものだ。
貧しい家に生まれた娘が、縁遠いのと同じ。
春が深まって花が散っても、誰がそれを惜しむのだろうか。
さて白侍郎が出向いて、一枝を手折ることにしよう。
※白侍郎:「侍郎」は尚書省の副官。白楽天は刑部省侍郎の地位にあった。
○大和三年(829)、長安の作。
○他の花に遅れてようやく開花した桃の花。
それも松や竹に囲まれた中で、ひっそりと咲いている。
そんな桃の花にも、出会いは必要。
それならば、白楽天自身が出向いて、一枝をいただこう。
絢爛豪華だけが素晴らしいのではない。
ひっそりと咲く花にも、素晴らしい美しさがある。
※次回以降、舞台は再び洛陽に移ります。
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