第177話卯時酒(2)

半醒思往來 往來籲可怪 寵辱憂喜間 惶惶二十載

前年辭紫闥したつ 今歲拋皁蓋そうがい 去矣魚返泉 超然蟬離蛻

是非莫分別 行止無疑礙ぎがい 浩氣貯胸中 青雲委身外

捫心私自語 自語誰能會 五十年來心 未如今日泰

況茲杯中物 行坐長相對


ほろ酔い気分の中、様々な想いを巡らせる。

そして浮かんできた想いには、なんとも呆れてしまう。

この私は、栄光と恥ずかしさ、哀しさと楽しさの中に、先行きを見通せず、不安な二十年間を過ごしてきた。

前年には、朝廷を辞し、今年は刺史の身分も投げ捨てた。

さあ行こうではないか、魚は淵に戻るものだ。

蝉でさえ、未練なく抜け殻を捨ててしまうではないか。

是非を考える時ではない、進むとか止まるなど、ここで悩むべきではない。

胸中、既になにものにもとらわれない。

この身も執着を捨てて、自らを青雲に委ねよう。

静かに我が心の内奥に語る。

この自分だけの言葉は、誰も理解できないだろう。

五十年生きてきて、今の心ほど安らかなことはなかった。

そのうえ、この杯の中には素晴らしいものがある。

やはり、始終、いつまでも、付き合うこととしよう。


※籲可怪:「籲」なんとも 「可怪」理解できない、あるいは呆れてしまう。

※惶惶:不安に過ごす、不安におびえて過ごす。

紫闥したつ:朝廷。

皁蓋そうがい:馬車宮中の小門。官職の身分を表現している。

※浩氣:なにものにもとらわれない心境。

※行坐:歩く時も座る時も、始終。


○宝暦二年(826)、蘇州の作。

○早朝から酒を飲み、ほろ酔い気分。心も大きくなっている。

 官職を辞し、気楽になっている様子が、よくわかる。


※蘇州刺史を辞した後、二ヶ月ほど洛陽に滞在することになります。

 次回以降、その時期の二首を訳します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る