第175話別蘇州

別蘇州


浩浩姑蘇こそ民 鬱鬱うつうつ長洲城 來慚荷寵命 去愧無能名

青紫行將吏 班白列黎甿れいぼう 一時臨水拜 十里隨舟行

餞筵せんえん猶未收 征棹不可停 稍隔煙樹色 尚聞絲竹聲

悵望武丘路 沉吟滸水亭 還鄉信有興 去郡能無情


蘇州との別れ


姑蘇こそには人があふれ、長洲の町はにぎやかだ。

ここに来た時には、我が身に余る大役を恥じ、去る時にも格別の実績が無いことを恥じる。

文武の官は、青と紫の衣服をつけ、整列している。

人民たちは、黒と白の髪で、行列となっている。

彼らは水際で一斉に拝礼、その後は舟にて十里程、同行をしてくれる。

長々と続く送別の宴会ではあるけれど、舟の出航は避けられない。

樹林にかかる靄に遮られてはいるけれど、管弦の音は今でも耳に届く。

武丘への道を望むと悲しくなる、また滸水の亭では詩を低い声で吟じた。

確かに郷里に戻ることはうれしいけれど、郡を離れることも悲しまないではいられない。


※浩浩:空や水の広々とした様子。ここでは人が無数にあふれている状態。

姑蘇こそ:蘇州近郊の姑蘇こそ山。蘇州そのものとして表現している。

鬱鬱うつうつ:樹木が盛んに繁る。家がぎっしりと並んで賑やかな様子として表現している。

※長洲城:蘇州のこと。春秋時代の呉王が狩りをした長洲苑にちなむ。

※將吏:武官と文官。官位により衣服の色が異なる。

※班白:黒髪と白髪が混ざり合う。

黎甿れいぼう:庶民

餞筵せんえん:送別の宴会。


○宝暦二年(826)、蘇州の作。

○白楽天は、落馬事故や、眼病にて蘇州の刺史を辞することになった。

○蘇州は、白楽天にとって好きな土地、別れるのも辛かったようだ。

○州刺史の離任儀式の実態資料としても貴重である。




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