第167話泛太湖書事寄微之

泛太湖書事寄微之


煙渚雲帆處處通 飄然舟似入虛空 玉杯淺酌巡初匝 金管徐吹曲未終

黃夾纈こうきょうけち林寒有葉 碧琉璃水淨無風 避旗飛鷺翩翻へんぽん白 驚鼓跳魚撥剌紅

澗雪かんせつ壓多松偃蹇えんけん 岩泉滴久石玲瓏 書為故事留湖上

(所見勝景、多記在湖中石上)

吟作新詩寄浙東

軍府威容從道盛 江山氣色定知同 報君一事君應羨 五宿澄波皓月ちょうはこうげつ


舟を太湖に浮かべ、見聞きしたことを書き記し、元微之への手紙とする。


舟は、雲のような白い帆を掲げ、岸辺から水煙を立たせて、あちらこちらに行き来する。

そして、その舟はまるで、ふわふわと果てしない空にへと入っていくように思う。

玉の杯に軽く酒を注ぎ、今、それがひとまわりした。

金の笛を静かに鳴らし、また一曲を吹く。

黄色に押し染めされたような林は、寒さの中でもその葉を残し、碧色の瑠璃の湖は清らかにして風も無い。

舟に掲げた旗をかわして、白い鷺がたおやかに飛び立っていく。

湖面を見れば、赤い魚が鼓の音に驚き跳ねている。

松が曲がっているのは、谷に積もる大量の雪の重みだろうか。

岩場からは、雪解け水が滴り続けて、石まで透き通るようだ。

見聞きしたことは、しっかりと書きつけて湖上に残し、

(目にした素晴らしい景色は、湖の岩の上に、数多く記した)

新しく詩を詠んで、浙東へと届けることにする。

越州の軍府は威容を誇るというけれど、ここの山川の景観とて引けを取るものではない。

君にここでの話を告げたなら、おそらく羨ましがるだろう。

何しろ、この水が澄み、月が輝くこの地に、私は五泊もしたのだから。


※太湖:蘇州の西にある湖。

※雲帆:雲のような白い帆。

※巡初匝:酒を回し飲みして、一巡。

黃夾纈こうきょうけち:黄色の押し染め。

※從道盛:盛んであること、立派であること、威容を誇るなど。

※定知同:越州と蘇州は近く、同じようなものだろうという意味を込めている。


○宝暦元年(825)、蘇州の作。

○確かに素晴らしい景色のなかで、のんびりと遊んでいるようだ。

 そして、ついつい、旧友元稹に「自慢する手紙」を書いてしまう。

 美しい景色を、美しい詩で詠みながら、茶目っ気もある白楽天である。

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