第157話別州民

別州民


耆老遮帰路  壺漿満別筵  甘棠無一樹  那得涙潸然さんぜん     

税重多貧戸  農飢足旱田  唯留一湖水  与汝救荒年

(今春増築銭塘湖堤 貯水以防天旱 故云)


州の人々とお別れをする。


帰還の路を塞いで、長老たちは、この私を引き留める。

別れの宴席の酒壺には、酒がたっぷりと残っている。

善政の証である甘棠など、一本も無い。

それなのに、涙を流してくれるのは何故だろう。

税の重さ故、貧しい家が多い。

農民は餓え、農地を見れば旱(ひでり)だらけだ。

対策は一つだけ、湖に貯水工事を施した。

こうすれば、あなた方を餓えから救うことが出来ると思ったのである。

(今年の春に、銭塘湖の堤防の増強工事を実施した。そして貯水機能を強化して、旱魃に備えた。かく言う)


※耆老:耆も老も、老人。

※帰路:白楽天が都に帰る道。地方長官が離任する際に、住民が道を塞いで引き留めるのは善政の証。

※甘棠無一樹:周の召公の故事に基づく。棠(ヤマナシ)の木の下で、人々の訴えを解決した。召公没後も、人々はその善政を偲んで「甘棠」の歌を歌ったといわれている。

潸然さんぜん :涙があふれ出る様子。

※銭塘湖:西湖のこと。春に雨が集中し、夏秋が旱魃となる地域だったようだ。そのために、白楽天は西湖の貯水機能増強工事を実施した。


○長慶四年(824)、杭州を離れる時の作。

○杭州は水は基本的には豊富であったけれど、洪水と旱魃に苦労していた。

 白楽天の西湖貯水機能増強工事により、そのコントロールが可能となり、以後発展することになる。


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