第146話官舎

官舎 


高樹換新葉 陰陰覆地隅 何言太守宅 有似幽人居

太守臥其下 閑慵かんよう両有餘 起嘗一甌いちおう茗 行讀一巻書

早梅結青実 残桜落紅珠 稚女弄庭果 嬉戯牽人裾

是日晩彌静 巣禽下相呼 嘖嘖さくさく護児鵲 啞啞母子烏

豈唯云鳥爾 吾亦引吾雛


高い樹は全体が若葉となり、地面の片隅に濃い陰を作っている。

太守の家が、これだと言うのだろうか。

これでは、世捨て人の住居としても間違いではない。

そうはいいながら、この太守はその下で、寝転んでいる。

とにくのどかで暇で、怠け心にあふれている。

起きれば晩摘みおそづみの茶を一杯口に含み、部屋に入って書物を一巻読んでしまう。

早咲きの梅はすでに青い実をつけているし、花が散り終えた桜桃から赤い実が落ちていく。

あどけない女の子が落ちていた庭の実をおもちゃにして遊び、そのついでにはしゃいで私の裾を引っ張って遊ぶ。

この日の晩など、本当に静かだ。

巣の中の鳥は、下に向かって呼び交わしている。

子供を護るカササギはサクサクと鳴き、アアと鳴くのはカラスの母子だ。

そういえば鳥ばかりではなかった。

私も同じように、私の雛を引き連れている。


※官舎:地方長官の住居。職場と同じだった。

※太守:郡の長官。州の刺史。

※幽人:他人と関わらずヒッソリと暮らす人。

一甌いちおう茗:一杯の茶。甌は茶碗。茗は晩に摘んだ茶葉。

※紅珠:さくらんぼの実。

※稚女:次女の羅児(当時七歳)


○長慶三年(823)、杭州の作。

○長官というのは閑職なのだろうか、とにかくのんきな生活を書いてある。

○可愛い盛りの次女と遊んでいる白楽天、それは幸せなのだと思う。



                                                                                                                                   

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