第143話自望秦赴五松駅 馬上偶睡 睡覚成吟

自望秦赴五松駅 馬上偶睡 睡覚成吟


長途発已久 前館行末至 體倦目已暗 曠然こうぜん遂成眠

右袂ゆうべい尚垂鞭 左手暫委 忽覚問僕夫 さい行百歩地

計神分處所 遅速相乖異 馬上幾多時 夢中無限事

誠哉達人語 百歳同一寐いちび


望秦嶺ぼうしんれいから五松駅に向かう途上、馬の上でうっかり眠ってしまった。

その眠りから覚めて、詩を詠む。


長い旅の途中であり、出立してから久しく時間が経過している。

次の宿泊所に向かってはいるのだけど、なかなか到着は先のようだ。

身体は疲れているし、目もぼんやりとしている。

強い眠気におそわれ、とうとう馬の上で、そのまま眠ってしまった。

右の袂には鞭がそのままかかり、左の手は手綱に委ねたままである。

突然目覚めて、下僕に尋ねると、進んだのは百歩ほどと言う。

身体と心は別のようだ。

時間の進み具合が異なるのである。

馬の上では、たいした時間ではないのに、夢の中では無限の事が起きていた。

哲人の言葉が真実であると実感する。

百年の人生も、一睡に同じであるという言葉だ。


望秦嶺ぼうしんれい:長安を出た途次にある山。

※五松駅:長安の東南にある駅名。(宿泊所)

※前館:次の宿泊所、五松駅のこと。

曠然こうぜん:眠気を催すさま。


○長慶二年(822)、長安から杭州に向かう途次の作。

○馬の上で眠ってしまうとは、かなりな疲れがあったのだろうか。とりあえず落馬しないで良かったなどと思う。

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