第141話曲江感秋 其一

其一


元和二年秋 我年三十七 長慶二年秋 我年五十一     

中間十四年 六年居譴黜けんちゅつ 窮通与栄悴 委運随外物     

遂師廬山遠 重弔湘江屈 夜聴竹枝愁 秋看灩堆えんたい没     

近辞巴郡印 又秉綸闈りんい筆 晩遇何足言 白髪映朱紱しゅふつ     

銷沈昔意気 改換旧容質 独有曲江秋 風煙如往日


元和二年の秋は三十七歳、そして長慶二年の秋は五十一歳。

その間の十四年間のうち、六年間は流謫の地に暮らすことになった。

逆境なのか順境なのか、栄誉ある立場か落魄の立場か、運に任せ外のことに従うだけであった。

かくて廬山の慧遠に教えを受け、重ねて湘江には屈原を弔った。

夜には楚の悲歌「竹枝」を聞き、秋には三峡の灩澦堆が水に没するのを見た。

先頃、巴郡(忠州)の刺史の職を辞し、再び中書省で筆を取る身分になった。

福運が晩年になりやってきたと自慢する気はない。

高官が持つ朱の印綬に映るのは、我が白髪だ。

かつての高邁な精神は衰え、容姿もみじめに変わり果てた。

ただ、曲江の秋だけは、昔と変わらぬ風が吹き、 靄がただよっている。



譴黜けんちゅつ:罰を受け流謫されること。

※廬山遠:廬山に在した東普の名僧慧遠。

※湘江屈:湘江付近の汨羅に身を投げた屈原。

※竹枝:巴の地(四川省東部)の民間歌謡曲。

※灩堆没:三峡の一つ、瞿塘峡にあった灩澦堆の大岩。長江の水量が増えると水中に沈む。

※巴郡印:忠州刺史の身分を示す官印。

綸闈りんい筆:中書省で詔勅を起草すること。

朱紱しゅふつ:朱色の官服。中書舎人の身分を表す。


○長慶二年(822)、長安の作。

○ようやく流謫から脱し、長安に戻った白楽天。普通に勤務をしていれば出世も思いのままのはず。しかし、どうやら長安になじめなかったようだ。詩を読んでも、喜びを感じていないことがわかる。

○この詩を書いた数日後、白楽天は長安での職を辞する決断をした。


※次回以降、杭州時期の詩に移ります。

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