第138話聞夜砧

夜砧やちん


誰家思婦秋擣帛 月苦風凄砧杵ちんしょ悲 八月九月正長夜 千聲萬聲無了時

應到天明頭盡白 一聲添得一莖絲


夜に砧の音を聞く


どこの女なのかはわからない。

軍隊にとられた夫を偲び、秋のこの時期に絹を打っている音がする。

月は冷たく輝き、風も強く吹いている。

杵の砧を打つ音は、ほんとうにもの悲しい。

秋が深まる八月から九月、千の音、万の音は限りなく続いている。

女の頭は、夜明けにはおそらく真っ白。

一声打つたびに、白髪が一本増えていく。


夜砧やちん:布を砧で打って、冬衣を仕立てる準備をする。

※婦秋:遠く出征した夫を思う妻。

※擣帛:絹を打って衣服を仕立てるのに備える。

※月苦:「苦」は光が冴え冴えと冷たく輝く。


○長慶二年(822)、長安の作。

○冬衣は出征した兵士に送るもの。生死もわからない夫のために懸命に砧を打ち続ける。

○いつ返ってくるのかわかない寂しさ、生死がわからない不安から、一回打つたびに、髪の毛が白くなる。


○妻は夫と再会できたのだろうか、いろいろ考えてしまう。

 ぐっと引き込まれる名詩だと思う。


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