第137話西掖早秋直夜書意

西掖早秋直夜書意

自此後中書舎人時作


涼風起禁掖きんてき 新月生宮沼 夜半秋暗來 萬年枝嫋嫋

炎涼遞時節 鐘鼓交昏曉 遇聖惜年衰 報恩愁力小 

素餐そきん無補益 朱綬虛纏繞てんじょう 冠蓋棲野雲 稻粱養山鳥 

量能私自省 所得已非少 五品不為賤 五十不為夭

若無知足心 貪求何日了


西掖で秋の初めに考えを書き留める。

この後は、中書舎人の時に作った。


宮廷に涼しい風が吹き、宮中の池から月が昇っていく。

秋というものは、真夜中にすっと忍び込み、その風は万年樹の枝を揺らす。

季節は夏から秋へと変化し、時は朝から夜へと移る。

年老いた身になった時に、聖代に出会い、口惜しく感じる。

天子からの御恩に対して、我が身の力不足が、悲しくなる。

何の有益なこともせずに、禄を受け取り、朱の印綬をただぶら下げているだけだ。

衣冠をまとう身分となりながら、野の雲のほとりに住む。

過分にして立派な俵物を賜ったにしても、山鳥の餌となっている。

自らの力量を冷静に考えれば、すでに過分なものを受けてきている。

官位にしても五品は低いとは言えない。

歳にしても五十というのは、若死というものではない。

足るを知るという心を持たない輩は、いつまでも求めることをやめないのだろうけれど。


西掖せいてき:中書省の別称。宮廷の西側に位置した。

※直夜:当直の夜。

禁掖きんてき:宮中のこと。

※萬年:宮中に植えられる木のこと。トチノキ類の常緑樹。

素餐そきん:働きもないのに、禄を賜ること。

※稻粱:稲とアワ(穀物)


○長慶元年(821)、長安の作。

○十月に中書舎人に昇進、正五品上となった。その次は中書侍郎、宰相の可能性も出てきている。

○天子の側近にまで出世し、自らを戒めている。

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