第130話春江

春江


炎涼昏暁こんぎょう苦推遷 不覚忠州已二年 閉閤只聴朝暮鼓 上楼空望往来船

鶯声誘引来花下 草色勾留坐水辺 唯有春江看未厭 縈砂めぐる淥潺湲りょくせんかん


春の長江


夏と冬 朝と暮れの移り変わりは、あっと言う間に過ぎていく。

この中州に来て、いつのまにか二年となった。

館を開けることもなく、朝と夕方の鼓の音を何もせずに聴き、

楼の高いところにのぼり、往来する船を空しく眺める。

鶯の美声に誘われ、花の下へふらふらと歩き、

緑の草に引き留められて、水のほとりに座る。

春の長江については、一人見ていても、飽きることはない。

水は、石をめぐり、緑色をしてサラサラと流れていく。



※炎涼:夏と冬。

昏暁こんぎょう:朝と晩。

※苦:程度の強いことをあらわす。時間のたつのを、本当に早く感じている。

※閉閤:閤は建物の小門。それを閉じてしまっている。

※縈砂めぐる石:江中の砂や石のまわりを水がくねり流れるという表現。

淥潺湲りょくせんかん:緑色の水が静かに流れる様子。


○元和十五年(820)、忠州の作。

○寂しくも安定した生活が続き、あっと言う間に二年が経過している。

○江州時期のような、自嘲気味な意味が込められていない。ある程度の諦めのような感じで暮らしているのだろうか。

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