第115話山中獨吟

山中獨吟


人各有一癖 我癖在章句 萬緣皆已消 此病獨未去 

每逢美風景 或對好親故 高聲詠一篇 恍若與神遇 

自為江上客 半在山中住 有時新詩成 獨上東巖とうがん路 

身倚白石崖 手攀青桂樹 狂吟驚林壑りんがく 猿鳥皆窺覷きしょ

恐為世所嗤 故就無人處


山中で一人、詩を吟じる。


人間にはそれぞれ、癖というものがある。

私の癖は、詩作である。

この世界の全ての縁が消滅しても、この病のような癖はなおることはない。

美しい風景を見る時、気の置けない友人と一緒の時。

一篇の詩を高らかに詠ずれば、鬼神と出会った如くに、陶酔の境地に至る。

江上の人になってからは、半分程度は山の中で暮らしている。

新しい詩ができれば、東の岩まで向かう道を、一人で登る。

身体を白い岩の崖にもたらせ、青い桂樹の枝をつたって登る・

恥も外聞もなく大声で吟ずる声を聞き、山の猿や鳥も、首をかしげて覗き込んでくる。

世間の人達に笑われることを気にして、わざわざ、こんな人のいない山に登ってくるのである。



○元和十三年(818)、江州の作。

○白楽天のほぼ唯一執着している詩、江州における。その詩作の様子を書いてある。

○山登りに付き添って、詩を吟じるところを、聞きたくなった。

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