第114話弄龜羅

龜羅きら


有侄始六歲 字之為阿龜あき 有女生三年 其名曰羅兒らじ

一始學笑語 一能誦歌詩 朝戲抱我足 夜眠枕我衣

汝生何其晚 我年行已衰 物情小可念 人意老多慈

酒美竟須壞 月圓終有虧 亦如恩愛緣 乃是憂惱資

舉世同此累 吾安能去之


亀児、羅児と遊ぶ。

甥はやっと六歳になった。その名前は阿龜あき

娘は三歳。名前は羅児。

一人は笑って言葉を話し始めた。

もう一人は詩を口ずさむことができる。

朝にはおちゃめに私の足に抱きついてくるし、夜になると私の服を枕に眠っている。

君たちは、生まれるのが遅すぎたよ。

私はこれから老い衰えて行くというのに。

人の心は若いと可愛らしいし、その人が老いるとやさしくなる。

美味しい酒も飲みすぎると結局は身体を壊す。

丸い月もやがては欠けていく。

愛情という縁も、それと同じ。

それがあるから苦悩の原因になる。

しかし世間全体がそうなっている。

だから私だけが、どうしてそれから離れることができるのだろうか。


※弄:相手にして遊ぶ。

※亀児:弟の息子。

※羅児:白楽天の次女(元和11年誕生)。長女は元和六年に三歳で夭折。

※姪:兄弟の子。

※阿亀:「阿」は名前の前につけて親しさをあらわす接頭語。

※物情:世人の心情。


○元和十三年(818)、江州の作。

○やはり子どもたちが可愛くてしかたがないのだと思う。それだから、再び失ってしまうことを不安に思っている。

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