第110話劉十九同宿

劉十九同宿

(時淮寇初破)


紅旗破賊非吾事 黄紙除書無我名 唯共嵩陽すうよう劉處士りゅうしょし 圍棋賭酒到天明


劉十九と同宿する。

(この時淮西の乱が、ようやく打ち破られた)


紅の旗を翻して賊軍を撃破することなど、私の知ったことではない。

そもそも昇官の証である黄色の詔勅に、私の名前など記されていない。

今はただ、嵩陽すうよう劉處士りゅうしょしと一緒に、罰杯をかけて碁盤を囲み、夜明けまで遊ぶだけだ。


※劉十九:江州における友人、おそらく飲み友達。

※淮寇初破:淮西の乱が平定された。元和十二年十一月。

※黄紙除書:黄色の紙に書かれた任命書。軍功をあげた者を昇官する詔書。

嵩陽すうよう:劉氏の出身地。

處士しょし:家にいる人の意味。士官はしていない人への敬称。


○元和十二年(817)、江州の作。

○淮西の乱が平定されたといっても、流謫の白楽天には無縁の話だった。そのため、飲み仲間と酒を飲みながら囲碁三昧である。


○藤原定家の「明月記」「後撰和歌集奥書」に、「紅旗非吾事」(紅旗は、吾が事に非ず)と引用されている。

尚、この場合のは源平の軍の意味。

ただ白楽天が流謫の身分で、何もできない状態で自嘲気味に書いているのに対し、定家は中流貴族の駆け出しの身分とはいえ、体制側に属している。

それなのに、国内で内乱が起こっている状態、天下人民が困っている状態で、「どうだって私には関係がない」と言い切っている。

高踏的と言えばそうなるけれど、歌のことしか考えていない定家らしく思う。

後年、後鳥羽院から「相当な偏屈者」と称されたのも、わかるような気がする。

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