第107話元和十二年 淮寇未平

元和十二年 淮寇未平 詔停歳杖  憤然有感  率爾成章


聞停歳杖軫皇情 應爲淮西寇未平 不分気従歌裏發 無明心向酒中生

愚計忽思飛短檄 狂心便欲請長纓 従来妄動多如此 自笑何得曾事成


元和十二年 淮西の乱は、いまだ平定されず、歳杖を停止する詔が発表された。

私の心中に、憤りがこみ上げてきたので、即座に詩を書いたのである。


歳杖を停止するということを聞いた。

天子の気持を思うと、誠においたわしいことである。

その理由は、淮西の乱が、いまだに平定されないことと察する。

釈然としない思いは歌の中に生じる。

無明の思いが酒が飲みながら浮かんでくる。

突然、短い檄文を出そうかと愚かにも思う。

敵将を捕らえるべく、冠の長い紐をよこせなどと狂った思いも浮かんでくる。

我ながらいつもの軽々しい言動だと思う。

これでは、かつての巧臣の経歴などないにも等しく、自らを笑ってしまう。



※淮寇:呉元済の乱。元和九年(814)淮西節度使の呉少陽が死に、その子の呉元済が朝廷の命がないにもかかわらず居座った。そのため、以後、官軍と数度の戦闘を繰り返した。元和十二年に平定されたけれど、正月時点では、戦闘中であった。

※歳杖:元日の儀式。

※不分気:納得できない、釈然としないこと。

※無明心:明晰さを失った心。

※愚計、狂心:単なる分不相応の思いつきを表現している。

※短檄:軍隊を鼓舞する短い檄文。


○元和十二年(817)、江州の作。

○淮西の乱への対応は、朝廷の中でも主戦派と和睦派に対立があった。

○呉元済は武元衡(宰相、呉元済が反乱を起こした時、憲宗から全てを委任されて討伐を画策した)を刺客により暗殺した。

○白楽天(白居易)は、呉元済の討伐を主張する上書を提出、江州に左遷された。

 この詩全体に白楽天の無力感と疎外感が満ちている。




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