第106話東南行(15)

天涯書達否  泉下哭無  

(去年元九瘴瘧 書去竟未報 今春聞席八歿 久與還往 能無慟哭)


謾寫詩盈巷  空盛酒満壺  只添新惆望  豈復舊歓娯

壮志因愁減  衰容與病俱  相逢應不識  滿頷白髭鬚



私の手紙は、天涯の地に届いたのだろうか。

黄泉の国に、私の慟哭は伝わったのだろうか。

(去年に元九がオコリを患ったと聞き、手紙を送ったけれど、返事がない。今年の春に席八が亡くなったと聞いた。長年に渡り行来した間柄だ。慟哭しないではいられない)


詩を思うがままに書き連ね、巻物があふれている。

することもなく酒をくんで壺を満たす。

悲しみは、どんなことをしても増すばかりだ。

昔の楽しい日々は、帰ってこない。

立派な志は、愁いですり減ってしまった。

身体の老いは病と足並みを合わせている。

あなた方はどこかで私を見ても、私のことなどわからないだろう。

白いあご髭をたくわえたこの姿が、この私であるとは。


○元和十二年(817)、江州の作。

○今までの人生を振り返った長編の回想詩。

○栄光と現在の悲しみに沈む日々が、仔細につづられている。


○左遷の地で、いろいろ気楽と思い込ませようとしたり、それでも悲哀の思いは消えない。そこに白楽天の人間らしさ、決して聖人君主の道徳話ではない生身の人間の心が込められている。それだから、白楽天の詩は愛し続けられるのだと思う。



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