第93話東南行(2)

見果多盧橘ろきつ 聞とり鷓鴣しゃこ 山歌猿獨叫 野哭鳥相呼

嶺徼雲成棧 江郊水當郛 月橋翹柱鶴 風帆颭檣烏しょうちょう

おおかめ礙潮無信 蛟驚浪不虞 鼉鳴泉窟室 蜃結氣浮圖 

樹裂山魈穴 沙含水弩樞 喘牛犁紫芋 羸馬るいば放青菰 



果物は金柑しか見えない。

鳥はシャコの声だけが聞こえる。

山の家に行けば、猿が一匹鳴く声が歌になる。

鳥同士が呼び交わす鳴き声は、まさに大騒ぎだ。

山間は確かに絶境、その桟道は雲だ。

川沿いの地方では、水路が城壁になる。

橋は月光に浮かび、鶴は道標から飛び立っていく。

帆は風を受け、風見鶏のカラスが揺れている。

潮の干満は大亀に邪魔をされ、ミズチが暴れるのでいきなり大波が立つ。

水の洞窟ではカエルが鳴き、大ハマグリが息を吐き出し、寺の形を作り出す。

山猿のねぐらは木の洞だ。

砂塵の中には、毒虫が潜んでいる。

牛は暑さに喘ぎながら紫芋をすき、やせた馬は自由に真菰を食べている。



※盧橘:金柑。枇杷との説もある。

※鷓鴣:キジに似た南方の鳥。

あがる柱鶴ちゅうかく:道標の鶴の飾りが飛び立つような雰囲気があったと思われる。

※檣烏:船の帆柱につけたカラスの形の風見鶏。

おおかめ礙潮無信:おおきな亀が水路をふさいでしまうのか、潮の干満が一定ではないことを表現する。

※蛟:龍の一種。予想もつかない波を起こすという。

※蜃結氣浮圖:「「蜃」は大ハマグリ。その口から出す息が蜃気楼を作ると思われていた。

※山魈:オランウータンの類。

羸馬るいば:やせこけた馬。

青菰せいこ:マコモ


○これも白楽天による南方風景の表現。

 どことなく、表現にトゲを感じる。





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