第90話閉關

閉關へいかん


我心忘世久  世亦不我干  遂成一無事  因得常掩關おうかん

掩關来幾時  髣髴ほうふつ二三年  著書已盈跌えいちつ  生子欲能言

始悟身向老  復悲世多艱  廻顧趨時者  役役塵壤間

歳暮竟何得  不如旦安閑


門を閉じる


私は世間を忘れて久しくなった。

また世間も私には関わらない。

用事などは何もなく、そのため、常に門は閉じたままである。

その門を閉じて、どれほどだろうか。

おそらく二、三年というところか。

書いたものは跌にたまり、生まれてきた子供は言葉を発するほど成長した。

最近は身体が老いていくことに気がついた。

世に艱難かんなんが溢れていることを悲しく思う。

人々が様々な世事に走り回るのを眺めていると、本当に俗塵にまみれて、なんと余裕がないのだろうかと思う。

そんな人生の終わりには、何を得るのだろうか。

私としては、まずはゆっくりと暮らす以外にはないのだけれど。


閉關へいかん:門を閉ざすこと。

掩關おうかん来:門を閉ざして以来。

髣髴ほうふつ:だいたい

盈跌えいちつ:書き留めた紙がちつにはさむほど多いこと。

※生子:元和十一年に生まれた女の子

※趨時:時代や世間の中で生きる人々。

※役役:あくせくするようす。

※歳暮:一年の終わり、それを人生の終末期にたとえている。



○元和十二年(817)江州の作

○世間とのつながりを断ち切ってしまえば「棄てる」という表現になるけれど「忘れる」という表現に留めている。

○世間との関わりは持たないけれど、関心自体がないわけではない。

 ただ、白楽天としては、のんびりする以外に何もない。

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