第91話感情

感情


中庭曬服玩  忽見故郷履  昔贈我者誰  東隣嬋娟子

因思結終始  特用結終始  永願如履綦  雙行復雙止

自吾謫江郡  漂蕩三千里  爲感長情人  提携同到此

今朝一惆悵  反復看未已  人雙履猶雙  何曽得相似

可嗟復可惜  錦表繍爲裏  況經梅雨来  色黯花草死


思いに感じて


愛用の品々を庭で虫干しをしていた。

郷里の靴が突然目に留まった。

その昔に、私に誰が送ってくれたのだろうか。

東隣に住む可愛らしい女の子だった。

思い出したのは、贈られた時の言葉。

思いが、その時の言葉の中に、全て言い尽くされていた。

「ずっと、この靴のように、一緒に歩もうと願っています」

ところが私は江州に流された身分だ。

さすらうことも三千里となった。

あの時の深い思いに感じて、棄てることも出来ず、一緒にこんなところまで持ってきてしまった、

今日の朝、突然悲しくなった。

靴を何度も繰り返して見ている。

あの女の子とは別れることになったけれど、靴は両方そろっている。

人と靴は、やはり違うのだと思う。

泣きたくなるし、本当に悔しい。

表は錦で裏には刺繍のある、この靴。

そのうえ梅雨を過ぎて、黒ずんでしまい、草花の模様も崩れてしまった、この靴を見ている。


※曬服玩:服玩(生活用品)を「曬」(虫干し)する。

※東隣嬋娟子:郷里の家に、恋人が住んでいたらしい。

※履綦:靴

※漂蕩:水に浮かぶように漂う。

※長情人:長く思い続ける人。

※色黯:色があせて黒ずむこと。

※花草:靴の模様。


○元和十二年(817)、江州の作。

○虫干しの品の中に、昔の恋人から贈られた靴を見て、思い出に浸っている。

○想いを表すのに靴を贈るということは、日本ではあまり考えられないけれど、これもなかなか面白い、千二百年前の詩で、新発見をしている。

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