第88話重題其の三 香炉峰の雪
日高睡足猶慵起 小閣重衾不怕寒 遺愛寺鐘欹枕聽
香爐峰雪撥簾看 匡廬便是逃名地 司馬仍為送老官
心泰身寧是歸處 故鄉何獨在長安
日は高くなり、睡眠もしっかり取れたけれど、なかなか起きる気分になれない。
小さい部屋ではあるけれど、しとねを重ねてあるので、寒さの不安はない。
遺愛寺の鐘の音が聞こえてくるので、枕を立てて聞いている。
香炉峰の見事な雪を、簾を上げて眺めている。
世間の虚しい名前などから逃れて暮らすには、この廬山は最適の地だと思う。
そうなると、この司馬という職位は、私のような老人には適したものだ。
心も穏やかで、身体も楽だ。
これが落ち着いた地なのだと思う。
故郷とは、長安に限る必要はない。
※重題:「香鑪峯下」に続いて詠んだ詩の第三首。
※小閣:小部屋
※逃名地:世間の名声を求めず、隠棲する地。
○元和十二年(817)、江州の作。
○香炉峰の草堂で、のんびり過ごすということを満喫している。
○枕草子
雪のいと高う降りたるを例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火おこして、物語などして集まりさぶらうに、
「少納言よ 香炉峰の雪いかならむ」
と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまふ。
●現代語訳
雪がたいそう高く降り積もっているけれど、いつもと違って御格子を下げています。
寒いので、火鉢に火をおこして、皆で話をして集まっていると、
中宮定子様が、
「清少納言様、香炉峰の雪はどうなのでしょうね」
とおっしゃるので、私(清少納言)は人にお願いして御格子を上げさせて、御簾を高く上げたところ、中宮様はお笑いになります。
同じ白楽天の詩の使い方でも、清少納言と紫式部の違い。
清少納言は宮廷生活の中でのエッセンスに、紫式部は物語の根幹として使う。
枕草子と源氏物語の違いもあるけれど、清少納言の使い方も大好き。
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