第86話香鑪峯下(1)

香鑪峯下 新置草堂 卽事詠懐 題於石上


香鑪峯北面  遺愛寺西偏  白石何鑿鑿さくさく  清流亦潺潺せんせん

有松數十株  有竹千餘竿  松張翠傘蓋さんがい  竹倚青琅玕ろうかん

其下無人居  惜哉多歳年  有時聚猿鳥  終日空風煙

時有沈冥子  姓白字樂天  平生無所好  見此心依然


香鑪峯のふもとに、新しく草堂を建てた。

その場で、想いを詠み、岩の上に書き綴った。



香鑪峯の北面にて、遺愛寺の西側。

素晴らしく輝く白石があり、清流が涼やかに流れている。

数十本の松の木が生え、千に余る竹も生えている。

松は緑の傘を広げ、竹は青い琅玕の玉を並べる。

これほど素晴らしい地なのに、誰も住む人が無く、惜しいことに長年が過ぎている。

時折には猿や鳥が集い、終日、風が吹き、霞がたなびいている。

さて、ここに風災のあがらない男が現れた。

姓は白、字は楽天という。

普段は特に関心のあるものなどはないけれど、この地を見た途端、心が魅了されてしまった。


※香鑪峯:廬山の北側の峯。形が香炉に似ていることから名付けられた。

※白石と清流:水が澄んでいて、水中の白い石が輝いて(鑿鑿さくさく)見える。

潺潺せんせん:水が清らかに流れる様子。

琅玕ろうかん:美玉。

※沈冥子:うらぶれた男。


○江州の時期に、心の平安を求めて、廬山に草堂を建てた。

○自らを「風災のあがらない、うらぶれた男」として、第三者化して、その想いを綴っていく。





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