第79話琵琶引(4)
沈吟放撥插絃中 整頓衣裳起斂容 自言本是京城女 家在蝦蟇陵下住
十三學得琵琶成 名屬敎坊第一部 曲罷曾敎善才伏 粧成毎被秋娘妬
五陵年少爭纏頭 一曲紅綃不知數 鈿頭雲箆撃節碎 血色羅裙翻酒汚
琵琶弾きの妓女は、心を深く静めてバチを置き、絃の間に挟んだ。
身なりを整え立ち上がり、表情も改めた。
そして、自ら語りだした
自分が元来は都に生まれた女であること、
蝦蟇陵付近に家があったこと。
十三歳で琵琶を習得し、教坊の第一部に入ったこと。
一曲を弾き終えるごとに善才を驚かせ、化粧をするごとに妓女たちに妬まれたこと。
富貴なお屋敷の若君たちからは先を争って祝儀をいただき、一曲弾き終えると数え切れないほど多くの赤い絹をいただいたこと。
螺鈿雲形のこうがいは、拍子を取っている間に壊してしまったこと。
血の色のようなスカートは、酒をこぼして汚してしまったこと。
※沈吟:深く考え込む(静める)こと
※斂容:表情を改めること
※蝦蟇陵:長安の常楽坊にあった。漢時代の学者董仲舒の墓(陵)があり、蝦蟇陵と呼ばれた。通りかかる人が墓陵の前で馬を降りるので下馬陵と呼ばれ、後に音がなまって蝦蟇陵に変化した。
※教坊第一部:官立音楽教習所の第一部。優秀な生徒を集めていたらしい。
※秋娘:妓女の通称
※五陵:長安の北郊。漢の五帝の陵があった。富貴なお屋敷が多くあった地区。
※纏頭:妓女に祝儀を贈ること。
※螺鈿雲形のこうがい:螺鈿で作られた雲形の髪飾り。
※撃節:リズムを取ること。
※翻酒汚:酒をひっくり返して汚してしまうこと。
○妓女の若き頃、琵琶の技と美貌で人気を集めたことを、自ら語っている。
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