第78話琵琶引(3)

 閒關鶯語花底滑  幽咽泉流氷下難  氷泉冷澁絃凝絶  凝絶不通聲暫歇  

 別有幽愁暗恨生  此時無聲勝有聲  銀瓶乍破水漿逬  鐵騎突出刀鎗鳴  

 曲終収撥當心畫  四絃一聲如裂帛  東船西舫悄無言  唯見江心秋月白


麗しいウグイスの声が咲き誇る花々の奥にまで響き渡ると思えば、咽び泣くような泉の水が氷面の下で流れをとめている。

泉の水が凍りつき、流れることができないように、絃の音もとまった。

そのまま流れず、しばしば、とまっている。

深い愁いが周囲に満ちている。

この音のない静けさは、音がある以上に心に響く。

すると突然、銀の瓶が割れた。

数多の鉄の騎馬武者が出現、突撃を繰り返し、刀や槍を交える。

曲は終わり、バチをおさめた。

中心で絃を払った。

四絃を併せた音は、絹を裂く悲鳴のようだ。

すでに、東の船も西の船も、聴き入っているのだろう、ひっそりとしている。

川の中ほどに、秋ならではの白い月が浮かんでいる。


※閒關:鳥の鳴き声が、華やかでなめらかな様子。

※幽咽:咽び泣くようなか弾き方。

※難:スムーズでないこと。

※冷澁:凍りついたように滞ること。

※凝絶:曲が一旦とまる。

※銀瓶乍破水漿逬:突然激しい演奏が始まることを表現する。

※鐵騎突出刀鎗鳴:激しい演奏を、鉄騎兵の闘いとして、更に表現を加えている。

※当心画:琵琶の中心で絃を一気に払う。


○東の船も西の船も聞き惚れるほどの演奏。

○白楽天の演奏描写も、微に入り細に入り、なかなか的確。

○やはり感性がすぐれた詩人は、一つの曲に様々、思い浮かべるようだ。

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