第72話訪陶公舊宅(1)
垢塵不汚玉 靈鳳不啄羶 嗚呼陶靖節 生彼晉宋間
心實有所守 口終不能言 永惟孤竹子 拂衣首陽山
夷齊各一身 窮餓未爲難 先生有五男 與之同飢寒
腸中食不充 身上衣不完 連徴竟不起 斯可謂眞賢
世俗の塵芥が清らかな玉を汚すことはできません。
聖なる鳳凰が不潔なものを啄むこともありません。
ああ、陶淵明先生は晋から宋へと変わる、あの激動の時期に、その生涯を送られたのです。
その堅い信念を心に留め、決して口にだすことはなさいませんでした。
私が従来から尊敬していたのは、孤竹君の子、伯夷と叔斉が、きっぱりと世を捨て、首陽山に隠棲したことです。
伯夷と叔斉は、いずれも、その身一つ、貧窮にも飢饉にも、耐えきりました。
ところが先生には、五人の男児、それゆえ、一家が全員、餓えと寒さに、お苦しみになられました。
食事が腹の中を満たすことはなく、衣服もその身体を被うほどには不足していました。
しかし、先生は何度も官職の誘いがありながら、最後まで答えず出仕はなさらなかった。
まさに、これこそ、真の賢人と言うべきでありましょう。
※垢塵:世俗の汚れ
※靈鳳:鳳凰。伝説の聖なる霊鳥。竹の身だけを食べる清浄な生き物とされる。
※陶靖節:陶淵明
※生彼晉宋間:陶淵明は東晋から宋への時期に生きた。陶淵明の曽祖父は武将、陶淵明も一時、東晋に仕えたけれど、王朝が宋となった後は、東晋に忠誠をつかい、無官を貫いた。
※孤竹子:周に仕えることを潔しとせず、首陽山に隠棲した伯夷と叔斉。孤竹は殷・周の国名。
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