第65話舟行

江州路上作


帆影日漸高  閑眠猶未起  起間鼓枻人  已行三十里

船頭有行䆴こうそう  炊稲烹紅鯉  飽食起婆娑  盥漱かんそう秋江水

平生滄浪そうろう意  一旦來遊此  何況不失家  舟中載妻子



帆影を見ると、日は少しずつ高くなっている。

そうはいっても、 ただただ眠ってしまい、まだ起きられない。

それでも起きて、舟に一緒に乗る人に聞いてみると、もう三十里も進んだと言う。

舳先には小さな携帯コンロがあって、それを使って米を炊いたり、赤い鯉を煮る。

満腹となったので、ようやく立ち上がって背伸びをする。

川の水は、秋ならではの冷たさ、その水で手水を使う。

そう言えば、いつも隠棲をしようと思っていた。

そして、思いがけず、ここでのんびりとしている。

よく考えれば、家族の離散もない、この舟にはわが愛する妻子も乗っている。


※鼓枻人:舟を漕ぐ人。「枻」は舟の「かい」

※已行三十里:出港は明け方、三十里進んだ。

行䆴こうそう:旅行で使う携帯コンロ

婆娑ばさ:背伸びをすること。

盥漱かんそう:手を洗い口をすすぐ。

滄浪そうろう:青い水。隠棲を意味している。

※何況:懲戒処分となり左遷される場合は、命が下された日に本人は都から出なければならない。家族は後から合流する。


○元和十年(815)、江州へ向かう間の作。

○左遷のおかげで、逆にのんびりできると喜んでいるのだろうか。

○左遷程度で殺されなかったから、白楽天の詩が多く残ったとも言われている。


○紅鯉料理は、興味がある。かつて横浜中華街で出していたらしいけれど、最近は見かけない。すぐに金になる焼き小龍包ばかりになってしまった。

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