第59話燕子楼三首並序

徐州故張尚書有愛妓日眄眄 善歌舞 雅多風態

予為校書郎時 遊徐泗閒

張尚書宴予 酒酣 出眄眄佐歡 歡甚

予因贈誌云 醉驕勝不得 風嫋牡丹花 一歡而去

爾後絶不相聞 迨兹僅一起矣 

昨日司勲員外郎張仲素繢之訪予 因吟新詩 有燕子楼三首

詞甚婉麗 詰其由 爲眄眄作成 繢之従事武寧纍年 頗知眄眄始末

云 尚書既歿 歸葬東洛

面彭城有張氏舊第 第中小楼名燕子

眄眄念舊愛而不嫁 居是楼十餘年 幽獨塊然 干今尚在

予愛繢之新詠 感彭城舊遊 因同其題 作三絶句


先の尚書を務められた徐州の張様には、眄眄べんべんというお気に入りの妓女がおりました。

彼女は歌舞が上手で、容姿も優れておりました。

私が、校書郎の任についていた時に、徐州から泗州付近を旅したことがあります。

張尚書が、私のために宴席を一つ設けてくれました時に、宴会もたけなわになり、眄眄べんべんを呼び出し、さらに座が盛り上がりました。

本当に大きな盛り上がりになったので、私は詩を贈りました。

「醉驕 勝え得ず 風は揺らす 牡丹の花」という詩です。

さんざん楽しんで宴席を辞しましたが、その後は何も消息を聞くこともなく、すでに十二年が過ぎました。

さて、先日、詩勲外郎の張仲素が、私を訪ねてきました。

そこで、彼が最近作った詩を口ずさんだそのなかに、「燕子三首」がありました。

言葉遣いも、極めて婉麗に詠んであり、その由来を聞くと眄眄べんべんのために詠んだものでありました。

繢之は長年、武寧軍に勤務していたので、眄眄べんべんについての話も、よく知っていたのです。

「張尚書は、既にお亡くなりとなり、故郷の洛陽に葬られています」

「そして彭城(徐州)には、張様のお屋敷があるのですが、その屋敷の中に小さな楼閣を作り、燕子と名付けられました」

眄眄べんべんは張様の長い恩義を心に、結局他の男とは結婚はしませんでした」

「この燕子の楼閣に十数年も住み、まだ一人暮らしで健在です」

との説明だった。

私は、張仲素の新作を気に入りました。

また、かつて彭城(徐州)を訪れたことが懐かしくなり、同じ題を使い、三首の絶句を作ったのです。


※燕子楼:張氏が愛妓眄眄べんべんのために、徐州に建てた楼閣


○現代では、コンパニオンなのだろうか、それにしても楼閣を建ててもらえるほどのお気に入り、建てられた彼女も恩義を感じて独身を通す、なかなか珍しい話だと思う。

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