第58話念金鑾子二首 其一
念
衰病四十身
一朝捨我去 魂影無處所 況念
始知骨肉愛 乃是憂悲聚 唯思未有前 以理遣傷苦
忘懷日已久 三度移寒暑 今日一傷心 因逢舊乳母
この私もすでに齢四十を数え、病み衰えに苦しむ日々となりました。
それでも、可愛らしい三歳の娘がおりました。
男ではないから出世の見込みもないけれど、いないよりはましです。
病み衰えた私の心の慰みとなり、時々は娘の頭などを撫でてあげたものです。
ところが突然、私のことを置き去りにして、あの世へと旅立ってしまいました。
もはや魂も姿もどこにも見えません。
やっと言葉を覚え始めた時の、早すぎるお別れです。
骨肉の情という言葉がありますが、これこそ愁いと悲しみを集めたものだと、この時初めて知りました。
もう必死に、生まれる前は、何もなかったと思い込ませ、理屈で心の痛みを押しつぶしました。
その悲しみを忘れて長い月日がたちました。
それでも、三度の夏と冬を重ねました。
今日、突然、心の傷みを感じたのは、かつての乳母に偶然、出会ったためなのです。
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※忘懷:思いを忘れる。
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○白楽天は、官僚、詩人としては、ほぼ順風。しかし子宝には恵まれていない。
○必死に忘れようと理性を保っても、愛娘の死は本当につらい。乳母に逢ったことを言い訳としたのか、乳母を通じて
○「骨肉の情」の表現が、心に響く。
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