第57話八月十五日夜、禁中
八月十五日夜、禁中独直、対月憶元九
銀 台 金 闕 夕 沈 沈 独 宿 相 思 在 翰 林
三 五 夜 中 新 月 色 二 千 里 外 故 人 心
渚 宮 東 面 煙 波 冷 浴 殿 西 頭 鐘 漏 深
猶 恐 清 光 不 同 見 江 陵 卑 湿 足 秋 陰
八月十五日の夜に、宮の中で一人宿直をして、月に向かって元九のことを思う。
銀の台閣と金の宮門が宵闇深く沈む時、私は独り翰 林 院に宿直し、君のことを想っている。
ちょうど昇り始めた十五夜の月。
その月の色に映るのは二千里も離れた君の心。
江陵の渚宮の東では川霧が冷たく立ち込めて、ここの宮廷では浴堂殿の西で鐘や漏刻が夜を深めている。
ただ心に浮かぶのは、この清らかな美しい月の光を、君のいる場所では見られないこと。
江陵は低湿地帯で、秋は曇り空が多いと聞いている。
※禁中独直:白楽天はこの当時、天子の詔勅を起草する翰林学士。その職場である翰林院に宿直をしていたと思われる。
※銀 台 金 闕:銀の台閣は銀の楼閣、金の闕は金の宮門。宮中にそびえる幾多の立派な建造物の表現。
※渚 宮 :春秋戦国時代の楚の国の離宮の名前。楚の都の江陵の南にあった。
※煙 波:水辺の霧。
※浴殿:大明宮の浴堂殿。翰林院の近くに位置する。翰林学士はそこで天子を対面した。
※鐘 漏:鐘と漏刻。元九が慣れ親しんだ宮廷の風景を表現している。
※ 卑 湿 :土地が低く湿気が多いこと。
○元和五年(810)長安の作
○遠く離れ離れになった親友を偲ぶ詩。
○源氏物語「須磨」
月のいとはなやかにさし出でたるに、「 今宵は十五夜なりけり」と思し出でて、殿上の御遊び恋しく、「 所々眺めたまふらむかし」と思ひやりたまふにつけても、月の顔のみまもられたまふ。
「二千里外故人心」と誦じたまへる、例の涙もとどめられず。入道の宮の、「 霧や隔つる」とのたまはせしほど、言はむ方なく恋しく、折々のこと思ひ出でたまふに、よよと、泣かれたまふ。
(月がとても明るく出たので、「今夜は十五夜であったのだ」とお思い出しになって、殿上の御遊が恋しく思われ、「あちこち方で物思いにふけっていらっしゃるであろう」とご想像なさるにつけても、月の顔ばかりがじっと見守られてしまう。
「二千里の外故人の心」と朗誦なさると、いつものように涙がとめどなく込み上げてくる。入道の宮が、「九重には霧が隔てているのか」とお詠みになった折、何とも言いようもがなく恋しく、折々のことをお思い出しになると、よよと、泣かずにはいらっしゃれない。
※十五夜の明月の夜、白楽天は長安の天子の宮殿から友人を思い、光源氏は流謫の地の須磨から都を思って涙した。
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