第56話初与元九別後(2)
覺來未及説 叩門聲冬冬 言是商州使 送君書一封
枕上忽驚起 顛倒著衣装 開緘見手札 一紙十三行
上論遷謫心 下説離別腸 心腸都未盡 不暇叙炎涼
云作此書夜 夜宿商州東 獨対孤燈坐 陽城山館中
夜深作書畢 山月向西斜 月前何所有 一樹紫桐花
桐花半落時 復道正相思 慇懃書背後 兼寄桐花詩
桐花詩八韻 思緖一何深 以我今朝意 憶君此夜心
一章三遍讃 一句十迴吟 珍重八十字 字宇化為金
目が覚めて夢のことなど話をしないうちに 門をトントンと叩く音がする。
聞いてみると商州からの使いの者と言う。
その使いの者は、君からの手紙を一通届けてくれたのだ。
私は驚き、枕から慌てて起きあがった。
その慌てついでに、服も上下逆さまだ。
その手紙の封を開いて中身を見ると、一枚の紙に十三行の文字。
その前半には左遷された心情を述べ、後半には別離の断腸の想いを綴る。
その心情も断腸の想いも、表しきれるものではないのだろう。
そもそも、時候の挨拶すら書く余裕もないと見た。
書かれているのは
「この手紙を書いている今夜、商州の東に宿を取った。
その陽城の山の宿で、一人寂しく灯火に向かい、座っている。
夜も更けて手紙を書き終えた時に、山の上の月は西に傾いた。
月の前に何があるかと見てみれば、一本の紫桐の木の花だ。
その桐の花も半分以上は散り去っている今のこの時、
私の心には、切々と君のことが浮かんでくる。
私は、重ねてそのことを申し上げたい」
なんと丁寧に、紙背に書き記し、併せて寄せられた「桐花の詩」
その「桐花の詩」は、八韻十六句。
なんという深い思いを籠めて書かれたのだろうか。
今朝、これを読む私の心は、これを書いた夜の君の思いを、強く偲ぶ。
一つの章を三度読み直し、一句を十回口ずさむ。
この大切な八十の文字。
一字一字は、金と変わる。
※冬冬:門をトントンと叩く音
※顛倒著衣装:慌てて飛び起きて上半身の服と下半身の服を逆さまにきてしまう。
※叙炎涼:時候のあいさつ
※陽山:商山付近の駅。
○元和五年(810)長安の作。感傷詩。
○左遷となった友人の元稹と別れた直後に、その元稹が夢に現れた。
その翌朝、彼から手紙と詩が届けられたという偶然。
互いの気持ちが通じ合っていたのだろうか、「一字一字が金と変わる」は、名言と思う。
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