第55話初与元九別後(1)

初與元九別後 忽夢見之

及窹而書適至 兼寄桐花詩 帳然漢懐 因以此寄


元稹と別れた直後に、彼の夢を見た。

そして目覚めた直後に、彼からの手紙が届き、それには「桐花の詩」が添えられていた。

悲しみが胸にこみ上げ、私はこれを彼に届ける。

(この時元稹は、江陵に左遷された直後であった)



永壽寺中語  新昌坊北分  歸來敷行涙 悲事不悲君

悠然藍田路  自去無消息  計君食宿程 已過商山北

昨夜雲四散  千里同月色  暁來夢見君 應是君相憶

夢中握君手  問君意如何  君言苦相憶 無人可寄書



君とは、永寿寺のあたりで様々な話をして、新昌里でお別れをした。

私が家に戻り涙したのは、今後の君の身の上以上に、こんなひどい事が起こる世の中を悲しんでのこと。

君は遥かに遠く藍田の道を進み、都を去ってから、音沙汰が何もなかった。

君の旅程を考えると、今頃は商山の北を過ぎたころだろうか。

昨晩は雲のない夜になった。

君とは千里を隔てる地にいるけれど 同じ月を見たと思う。

明け方に君の夢を見たんだ。

それは君が私のことを心配していてくれるのだろうと思った。

私は夢の中で君の手を握った。

君は今、どうなんだい、とね。

君の返事は、私のことを心配しているけれど、どうにも手紙を託す人がいないということだった。


※初與元九別後:元和六年(810)、政争に負けた元稹(元九)が、監察御史から江陵府士曹参軍に左遷され、長安から都落ちをしたこと。

帳然ちょうぜん:傷心

※永寿寺:唐の四代皇帝中宗が建立、長安の寺。

※新昌坊:長安の街区の一つ。白楽天が住んでいた地域。

※悲事:元稹(元九)の左遷のこと。元稹は内部批判が厳しすぎ左遷となった。

※不悲君:白楽天はこういう事態を嘆くけれど、厳しさを貫いた元稹については悲しまないとしている。

※藍田:長安の東南の宿場。

※無人可寄書:手紙を託したくても、託す人がいない。


○やはり政争渦巻く宮廷社会、批判を強め過ぎる、正義に走りすぎると有能の士は得てして左遷の憂き目となる。

○時々、極端なことが発生するのも、宮廷社会の特徴。

   

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