第49話新楽府其三十七 陵園妾

憐幽閉也


陵園妾

顏色如花命如葉 命如葉薄將奈何  一奉寢宮年月多

年月多 春愁秋思知何限 

靑絲髮落叢鬢疎 紅玉膚銷繫裙縵 憶昔宮中被妬猜

因讒得罪配陵來 老母啼呼趁車別 中官監送鏁門迴

山宮一閉無開日 未死此身不令出 松門到曉月徘徊

柏城盡日風蕭瑟 松門柏城幽閉深 聞蟬聽燕感光陰

眼看菊蘂重陽涙 手把梨花寒食心 把花掩涙無人見

綠蕪牆遶靑苔院 四季徒支粧粉錢 三朝不識君王面

遙想六宮奉至尊 宣徽雪夜浴堂春 雨露之恩不及者

猶聞不啻三千人 三千人   我爾君恩何厚薄

願令輪轉直陵園 三歳一來均苦樂


幽閉を憐れむ


陵墓に仕える宮の女

美しいお花のようなお顔でありながら まるで散り行く葉のような寂しいさだめ。

その 葉のような寂しい定めは どうにもならない。


ひとたび 陵墓のおつとめを命じられてから 長年の歳月が過ぎました。

長い歳月 春には愁い 秋には物思い それが尽きる日など あるのでしょうか。

美しい黒髪は すでに抜け落ち 豊かだった髪も まばらです。

紅玉のような肌も 色褪せ 袴はゆるゆるとなりました。

思い出すのは 過去のこと 宮中で妬まれ 告げ口をされ 罪を得て はるばる陵墓へと 送られてまいりました。

老いた母は 泣きわめいて車にすがり 別れを嘆き

護送役の宦官が 無慈悲にも門を閉め 姿を消した  そのままなのです。

こうして 一度閉ざされた山深い宮殿が開くことは 二度とないのです。

そして この命がある限り ここから外へ出ることは許されないのですね。 

松が植えられた門には 夜明けまで月がさまよい

柏の並ぶ陵には 一日中 寂しげな風が吹くばかりです。

松の門 柏の陵 幽閉は深く 秋の蝉 春の燕で 月日を数えるのみ。

菊花が咲けば 長陽に涙し 梨花を手にすれば 寒食の哀しみに沈みます。

花で涙を隠しても 誰も見る人はおりません。

垣根には緑が生い茂り 青い苔が庭を囲みます。

季節ごとには 使うこともないお化粧の費えを賜るけれど

天子のお顔など 三代も存じ上げません。

はるか昔を思い出せば 後宮で天子様にお仕えした日々のこと。

宣徽殿の雪の夜 浴堂殿の春。

天子様からの恩寵を賜らない宮女は 今なお三千人におさまらないとお聞きします。

三千人の宮の女 私とあなたがたとは 天子からの御恩が どれほど違うことでしょうか。

できるものならば 陵墓のおつとめは 代わる代わるにはできないでしょうか。

せめて 三年に一度にして 苦楽を 同じにしてほしいのです。


※陵園妾:陵園は皇帝の陵墓。妾は宮女。生前と同様に宮女を陵墓におき、仕えさせた。

※寢宮:陵墓のわきに、皇帝の生前の居に模して宮殿を作ったという。

※繫裙縵 :やせて、スカートの結びがゆるくなったことを表現する。

※中宦:宦官

※山宮:郊外の陵墓にある宮殿

※寒食:冬至から百五日目の節句。晩春の梨の花が咲く時期に、この日を含む前後三日間、火を使わず冷たい食事をとる。

※徒支:お化粧の費用を下賜されるけれど、陵墓勤めで無用となる。徒は無用の意味。

※至尊:天子


〇告げ口をされ、宮中から追放され、天子の陵墓の守り役を押し付けられた宮女。

〇上陽白髪人と同様に、後宮に召されながら恩寵を賜らない宮女の悲哀を歌っている。

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