第38話新楽府其九 新豐折臂翁(1)
戒邊功成
新豐老翁八十八 頭鬢眉須皆似雪
玄孫扶向店前行 左臂憑肩右臂折
問翁臂折來幾年 兼問致折何因緣
翁雲貫屬新豐縣 生逢聖代無征戰
慣聽梨園歌管聲 不識旗槍與弓箭
無何天寶大徴兵 戶有三丁點一丁
點得驅將何處去 五月萬里雲南行
聞道雲南有滬水 椒花落時瘴煙起
大軍徒涉水如湯 未過十人二三死
村南村北哭聲哀 兒別爺娘夫別妻
皆雲前後征蠻者 千萬人行無一回
辺境の軍事を戒める
新豊の町で見かけた老人 歳は八十八と言う。
髪の毛も眉もひげも 雪のように真っ白だ。
玄孫(やしゃご)に支えられて 店の前を歩いている。
左腕は玄孫の肩にかけ 右腕は折れたまま。
老人に尋ねてみた。
その腕は折れてからどれくらいたつのか、もう一つ折れた理由は何か。
老人は答えた。
私は新豊県の生まれ。おめでたい時代に生まれ 戦などは何もない時期だった。
耳に聞こえてくるのは 歌舞音曲の類ばかり 槍も弓も見たことはなかった。
しばらくすると 天宝の大徴兵があった。
一軒の家に 三人の男がいれば 一人は徴兵に取られる。
呼び出されてどこに連れて行かれるのかと思ったら 万里の先の雲南の地。
噂によると その雲南には
軍隊が歩き渡ると その川の水は 熱湯のように熱く 渡り終えるころには 十人中で二、三人は命を落すとのこと。
村の南も村の北も 悲しみで泣き叫ぶ声に包まれ 子は両親に別れ 夫は妻に別れを告げる。
皆が言う。
後にも先にも この南蛮への遠征に加わる何千何万のうち、戻って来れるのは一人もいない。
※新豊:長安の東北の県
※辺功:国境地帯の異民族に対する軍事。「功」は功績ではなく、仕事の意味。
※貫:籍貫(本籍地)に基づき徴税や徴兵を実施する。
※聖代:開元の治と称される玄宗皇帝の治世時。
※無何:さほど時間がたたないうち
※天寶大徴兵:天宝期に南方のチベット・ビルマ族の南詔国と不和が発生、天宝九年に雲南を攻略、翌十年に南詔制圧のために、大徴兵、大軍を送った。
※
※瘴煙:毒の煙、つまり毒ガスの類。
※爺娘:父と母をいう口語
○八十八:本来の八十八は、めでたい長寿。しかし障害を何故負っているのか、その原因が、その老人の言葉を通じて語られていく。
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