第33話新楽府 其一 七徳舞(3)

死囚四百來歸獄

貞観六年 親録因徒 死罪者三百九十 放出帰家

令明年秋来就刑 應期累至 詔悉原之


翦須燒藥賜功臣 李勣嗚咽思殺身

李勣常疾 醫云 得龍鬚焼灰 方可療之 

太宗自煎鬚焼灰賜之 服訖而癒 勣叩頭泣涕而謝


含血吮瘡撫戰士 思摩奮呼乞效死

李思摩嘗中弩 太宗親為吮血


則知不獨善戰善乘時 以心感人人心歸


爾來一百九十載 天下至今歌舞之

歌七德 舞七德 聖人有祚垂無極

豈徒耀神武 豈徒誇聖文

太宗意在陳王業 王業艱難示子孫



死刑囚四百人が監獄に戻ってきました。

(貞観六年 天子は自ら囚人の帳簿をお調べになり、死罪とされた三百九十人を釈放し家に帰しました。翌年の秋に再び死刑囚を監獄に戻すこととして刑に就かせる条件です。その期日になると全員が戻ってきました。天子は詔を発して全員を許したのです)


天子は自らのひげを切り、薬としてそれを焼き、功績のあった家臣に賜ります。

李勣は感激のあまり嗚咽して、天子のためには、その命を捧げようと考えるのです。

(李勣が病を得た時に、医者の「天子のひげを灰にしたものを手に入れれば、治療が出来る」との言葉により、太宗は自らひげを切り落とし焼いて灰にし賜った。それを服し終えた途端に病は快癒した。李勣は感激のあまり頭を床に打ちつけるほど嗚咽し、太宗に感謝した)


血を嘗め、傷口を吸うまでして戦士をいたわったので、李思摩は心が昂ぶり叫びます。天子のためなら命を差し出したいとまで。

(李思摩が弩に射られ出血した際に、太宗自ら流れる血をお吸いなされた)


このようなことから、わかります。

天子は戦闘にすぐれ時流に乗っただけの御方ではありません。

その類まれなる情け深い御心が人の心を動かし、それにより全ての人の心が天子に帰したということなのです。


その時から、すでに百九十年たちました。

天下は今に至るまで、あなたを想い、歌い、そして舞い続けております。

あなたの七徳を歌い続け、あなたの七徳を舞い続けています。

この感謝は、あなたが聖人であるからこそ、創り出したもの。

そして、この歌と舞は、永遠に続くのです。


あなたは、神にもたとえられる武力を輝かせただけではありません。

あなたは、神聖な文徳を誇るだけでもありません。


あなたの本当の思いは、帝王としてなすべき業を陳べ、帝王としてなす業の苦難を末永く子孫に示すことにありました。


○新楽府五十首は元和四年(809)頃、長安の作。七徳舞はその冒頭の詩

●唐の理想の皇帝太宗(李世民)が作った「七徳の舞」。

 「夫れ武は暴を禁じ、兵をおさめ、大を保ち、功を定め、民を安らげ、衆を和し、財を豊かにするものなり・・・武に七徳有り」

 唐王朝にとって最も重要な歌舞を題とし、太宗への賛美を行うとともに、その功業と精神を忘れず国家経営を行うべきとする白楽天の強い思いを感じる。

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