第28話王十八の山に帰るを送り

寄題送王十八帰山仙遊寺


曽於太白峰前住 数到仙遊寺裏来

黒水澄時潭底出 白雲破処洞門開

林間煖酒焼紅葉 石上題詩掃緑苔

惆悵旧遊復無到 菊花時節羨君廻



王質父が長安から山深い居宅に帰るというのを送別し、遥か離れたこの地から、仙遊寺を歌う。


かつて太白山のふもとに住んでいた頃は  仙遊寺には何度も遊んだものだ。


黒い水が澄んでくると 仙遊潭の水底が浮かび上がり


白雲が途切れれば 仙遊寺の、洞に設けた山門が見えた。


秋の風流を求め林の中に分け入り、紅葉をかき集め、それを炊いて酒を暖め 


岩の上の青苔を払って 詩を書いたこともある。


なんと残念なことに思うよ。


あの頃の遊びは もうできないね。


菊の咲くこの時期に


君が帰ってしまうのが うらやましくて 仕方がない。



※王十八:王質父 白楽天の友人で白楽天が盩厔県(ちゅうちつけん、陝西省)の役人時代に知り合った。

※帰山:長安から地方に帰っていくこと

※仙遊寺:盩厔県(ちゅうちつけん、陝西省)の仏教寺院

 白楽天は、友人の王質父、陳鴻とこの寺で遊び、話が玄宗と楊貴妃の話に及び「長恨歌」を作成することになった。

 尚、陳鴻は白楽天の長恨歌とは別に、玄宗と楊貴妃のより実話に近い「長恨歌伝」を作成している。

※太白山:盩厔県(ちゅうちつけん、陝西省)陝西省の西南部の山



○元和四年(809)長安の作

 仙遊寺で遊んだ後、白楽天が長安に復帰していた時期に、王質父が訪ねてきて、帰る時に送別歌として詠んだ。

 長安で役人として繁忙を極める中、かつての仙遊寺での友人との遊びを懐かしんでいる。

○「林間・石上」:和漢朗詠集(藤原公任が漢詩・漢文・和歌を集めた詩文集。寛仁2年(1018)頃成立)、「平家物語」、「徒然草」、「謡曲」、「紅葉狩」など多作品に引かれ、現在に至るまで、紅葉の句として日本では特に名高い。


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