第27話続古詩十種その二

掩淚別鄉里 飄颻將遠行

茫茫綠野中 春盡孤客情

驅馬上丘隴 高低路不平

風吹棠梨花 啼鳥時一聲

古墓何代人 不知姓與名

化作路傍土 年年春草生

感彼忽自悟 今我何營營



ふるさとを離れる時になり こらえていた涙がとまらない


風にふかれて あてのない遠い旅に出る。


目の前には どこまでも広がる緑の野原


春もすでに終わる


一人旅の思いとは こういうものか


馬に乗り 墳墓の丘を駆け上がる


その道は 高く低く 起伏の連続だ


ヤマナシの花が 風にゆられ 


鳥は 気まぐれに 声をあげる


この古い墓に眠る人は いつの時代の人なのか


もはや姓も名も わからない


すでに 道端の土の塊に変わりはて


春の草が 年ごとに生えてくるだけ


じっと見ていると 心に感じるものがある


最近の私は 何に対して余裕がなく あせっているのだろうかと



※続古詩:無名氏の「古詩」を模擬した詩。

     古詩は後漢時期に作られたと思われる作者不詳の五言詩

※飄颻:風に頼りさまよう様

※丘隴:墳墓

※棠梨花:ヤマナシの花



○元和六年(811)以降、長安の作

○後漢の作者不詳の古詩を白楽天がアレンジ

 前半部分は、人生のはかなさかから、刹那的な享楽に走ろうとする。

 しかし、古墓を見て我に返る。

 ただ、日常生活に追い立てられ、自分に余裕が無いのは、自分があくせくしているだけではないのか。

 すでに土塊となった誰の墓ともわからない古墓を見て、白楽天はそう感じた。


 「死ねばやがて土に還るだけのこと、あくせくしても仕方がない」

 そんな感じだろうか。



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